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札幌東病院 僧帽弁疾患で低侵襲治療 外科手術困難例にMitraClip開始

2019.08.06

僧帽弁疾患で低侵襲治療 外科手術困難例にMitraClip開始

札幌東徳洲会病院は、外科手術が困難な重症の僧帽弁閉鎖不全症(MR)に対する低侵襲な治療法であるMitraClip(マイトラクリップ)(経皮的僧帽弁接合不全修復システム)を開始した。
従来、MRの根治治療は外科手術(僧帽弁形成術、僧帽弁置換術)に限られていたが、患者さんのなかには高齢や併存疾患が原因で手術を受けられないケースがあった。MitraClipはカテーテルによる低侵襲な治療法で身体への負担が小さいことから、外科手術が難しい患者さんにも根治治療の機会を提供。実施施設は6月時点で全国59施設。
徳洲会グループでは湘南鎌倉総合病院(神奈川県)、岸和田徳洲会病院(大阪府)に続き3施設目。


徳洲会グループで3施設

「安全性を第一に取り組んでいきたい」と山崎副院長(右)、 棒田医長 「安全性を第一に取り組んでいきたい」と山崎副院長(右)、 棒田医長

僧帽弁は心臓の左心房と左心室の間にある弁。前尖(ぜんせん)と後尖(こうせん)の2枚の弁からなり、拍動によって血液が送られるのに合わせて開閉し、血液の逆流を防いでいる。MRは弁尖(べんせん)と左心室にある乳頭筋をつなぐ腱索(けんさく)が切れたり、弁輪が大きくなったりし、僧帽弁が適切に閉じずに血液が逆流してしまう疾患。症状は呼吸困難や息切れ、動悸(どうき)、疲労感、めまい、せき、むくみなど。心房細動など不整脈が合併することもある。

MitraClipは脚の付け根の大腿(だいたい)静脈からカテーテルを挿入し、右心房から心房中隔穿刺(せんし)を行い左心房にカテーテルを導き、経食道心エコーやX線透視ガイド下で、カテーテル先端のクリップを用い、適切な位置で前尖と後尖をつかんで血液の逆流を減らす。2008年に欧州で使用が始まり、以来、世界各国で8万人以上に使われている。国内では18年4月に保険適用。



MitraClipの初症例を5月に実施ん MitraClipの初症例を5月に実施

札幌東病院は16年秋にハイブリッドオペ室(透視・撮影装置を備えた手術室)を開設。17年4月にTAVI(経カテーテル大動脈弁置換術)を開始し、この7月に累計350件に到達した。PCI(経皮的冠動脈形成術)は年間約740件、不整脈アブレーション治療は同約150件を実施、循環器診療の拠点となっている。

山崎誠治・副院長兼循環器内科部長と棒田浩基・同科医長が術者となりMitraClipを実施。
山崎副院長は「ほとんどの心臓弁膜症は高齢になるほど発症頻度が上がります。開心術が困難な方も少なくないためニーズはありますし、地域の中核病院として医学の発展を患者さんに還元していくことは重要な役割と考えています」と力を込める。

僧帽弁閉鎖不全症の外科手術困難例を低侵襲 に治療できるMitraClip (画像提供:アポットジャパン) 僧帽弁閉鎖不全症の外科手術困難例を低侵襲 に治療できるMitraClip (画像提供:アポットジャパン)

MitraClipを実施するには日本循環器学会から実施施設として認定を取得する必要がある。人的要件や実績要件に高いハードルが課されているが、TAVIの施設基準と類似する部分も多く、同院は問題なくクリア。3月末に認定を受けた。

その後、毎週のようにシミュレーションを繰り返し、湘南鎌倉病院の治療現場を見学したり、同院の齋藤滋総長と水野真吾・循環器科部長を招いて指導を仰いだりしながら準備を進めてきた。棒田医長は現在も同院でのけん治療を定期的に見学し研鑽(けんさん)に励んでいる。

1例目は5月16日に実施。苫小牧市内に住む80代女性で、市内の病院からの紹介患者さんだ。棒田医長は「入退院を繰り返し心機能がだいぶ低下し、トイレに行くだけでも息苦しさを訴える患者さんでした。術後のリハビリを経て独歩退院できるまでに回復しました」とアピールする。6月に2例、7月にも2例を実施。同院は毎週、多職種からなるハートチーム・カンファレンスを開き治療提供に尽力している。

僧帽弁閉鎖不全症の外科手術困難例を低侵襲 に治療できるMitraClip (画像提供:アポットジャパン) 左/MitraClip による治療のイメージ図 右/クリップで前尖と後尖をとめて血液の逆流を低減(画像提供:アポットジャバン)

山崎副院長は地域の医療機関に加え、道内のグループ病院との連携を重視。道内にMitraClipを実施する病院は同院を含め計6施設あるが、うち5施設が札幌市内に偏在しているためだ。山崎副院長と棒田医長は「安全性を第一に考えながら、MRでお困りの患者さんのためMitraClipによる治療に取り組んでいきたい」と声をそろえる。

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