鎌ケ谷病院 高度な低侵襲治療を実践 「ハイブリッド手術室」整備
鎌ケ谷病院 高度な低侵襲治療を実践
「ハイブリッド手術室」整備
心外・脳血管内治療で活用
「より安全な治療に寄与」と堀院長(左)、兵頭センター長
鎌ケ谷病院は昨年9月にハイブリッド手術室を開設し、主に心臓血管外科手術や脳血管内治療の分野で活用。同手術室開設の背景には医療技術や医療機器の進歩による“治療の低侵襲化”の流れがある。
同院はこれまでにも手術支援ロボットのダヴィンチを導入するなど高精度な低侵襲手術に取り組んできた。診療機能の向上と、さらなる低侵襲治療の強化を図るため、ハイブリッド手術室を整備。
加えて昨年4月に着任した脳血管内治療センターの兵頭明夫センター長(兼徳洲会脳血管内治療顧問)の存在が大きい。兵頭センター長は、獨協医科大学埼玉医療センター特任教授兼血管内治療センター長や日本脳神経血管内治療学会理事長など要職を歴任。開頭手術、血管内治療ともに豊富な経験をもち、現在は脳血管内治療に専念している。ハイブリッド手術室に導入した血管撮影装置の機器選定にかかわり、同手術室の稼働とともに脳血管内治療を開始した。
将来的にはTAVI実施
脳血管内治療を行う様子
心臓血管外科専門医である堀隆樹院長は「当院の心臓血管外科では大動脈瘤や大動脈解離に対するステントグラフト内挿術に取り組んでいますが、以前は手術室にモバイルCアーム(移動型の血管撮影装置)を運び込んで実施していました。たとえば大動脈瘤の症例によっては、瘤内への血液流入を防ぐため、あらかじめ大動脈の分枝にコイル(金属製の細い糸)塞栓を行っておく必要があります。これまではカテーテル室でコイル塞栓を行い、翌日に手術室でステントグラフト内挿術を行っていました。ハイブリッド手術室ができたことで、2回に分けずに一度に施行することが可能になりました」と治療環境が大きく改善した点をアピールする。
胸・腹部大動脈瘤は生活習慣病である動脈硬化などが原因となって発症する疾患のひとつ。無症状であることが多いが、瘤が破裂してしまうと死亡率が高い危険な疾患だ。大動脈解離も進行すると深刻な状態を招く。
治療法は人工血管置換術とステントグラフト内挿術のふたつ。人工血管置換術は開胸あるいは開腹手術で大きな侵襲がともなう。一方、ステントグラフト内挿術はステントグラフトを病変部位までカテーテルで導き、血管の内側から押し広げて血管を補強する治療法のため、負担が少ない。2000年代に始まった治療法で、病変の位置や形状などに関して一定の条件を満たす必要があるものの、体力が低下した高齢の患者さんなどにとって有用な治療法だ。
ステントグラフト内挿術の追加治療として開胸・開腹手術への移行が必要となった場合でもハイブリッド手術室であれば円滑な対応が可能だ。
脳血管内治療を行う兵頭センター長は「医療技術の進歩により、“切らずに治療できる”脳血管疾患が増えました。当センターでは脳梗塞に対するカテーテルを用いた血栓回収療法など急性期治療や、脳動脈瘤に対するコイル塞栓術、脳動静脈奇形や硬膜動静脈瘻に対する塞栓物質を用いた治療、頸動脈狭窄に対する頸動脈ステント留置術などの予防的治療に取り組んでいます」と説明。脳神経外科など他科と連携し、患者さんごとに最適な治療法を選択している。
また、コイル塞栓術や外科手術が困難な一部の脳動脈瘤に対しては、「フローダイバーターステント治療」という新治療法も実践。大型の脳動脈瘤を対象とし、特殊なステント(メッシュ状の筒形のデバイス)を脳動脈瘤のある動脈に留置し、破裂リスクの低減を目指す治療法だ。2015年に保険適用となった。
これらの高度な脳血管内治療を、より安全に、かつ高い精度で実施するために、ハイブリッド手術室は重要な設備だ。「導入した血管撮影装置はバイプレーン(X線の照射装置と検知器を両端にもつCアームが2台)タイプで、低被曝、かつ造影剤も少ない量で高画質の画像を得ることができ、患者さんの負担軽減につながっています」(兵頭センター長)。高度な医療技術、医療機器に触れ、診療放射線技師や臨床検査技師など医療スタッフのモチベーション向上も見られるという。
同院はハイブリッド手術室を活用し、将来的にはTAVI(経カテーテル大動脈弁置換術)にも取り組みたい考えだ。