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徳洲会脳外部会 発表通じ知見深める Rag-Tag2019開催

2019.10.02

徳洲会脳外部会 発表通じ知見深める Rag-Tag2019開催

徳洲会グループ脳神経外科部会は8月10日、福岡徳洲会病院で「Rag-Tag(ラグタグ)2019 in 福岡」を開催した。全国のグループ病院から脳外科医ら約20人が参加し、演題発表と講演を通じ研鑽(けんさん)を積んだ。


症例報告から最新トピックまで

充実した内容に笑顔の参加者(前列左から4人目が中川院長、その右が飯原教授) 充実した内容に笑顔の参加者(前列左から4人目が中川院長、その右が飯原教授)

部会長の中川秀光・野崎徳洲会病院(大阪府)院長の挨拶で会はスタート。グループの脳神経外科について課題が見受けられる現状を指摘し、手術の手順や指示出し、カルテ記載、患者さんへの説明といった「基本」の重要性をあらためて強調するとともに、徹底するよう呼びかけた。そのうえで「質の向上を目指し、今回も活発に議論を行ってほしいと思います」と期待を寄せた。

前回同様、演題発表と講演でプログラムを構成。福岡病院の佐々木瑶・初期研修医、杉悠・初期研修医、赤木洋二郎・脳神経外科医師、和泉市立総合医療センター(大阪府)の久保田尚・脳神経外科部長、長束一紘・脳神経外科医師、松原徳洲会病院(同)の大山憲治・副院長兼脳神経外科部長、鎌ケ谷総合病院(千葉県)の杉本耕一・回復期リハビリテーション科・脳神経外科部長が症例を報告。



頸椎(けいつい)硬膜外動静脈瘻(ろう)や後頭骨頸椎固定術、脳静脈洞血栓症、AVM(脳動静脈奇形=血管の塊)、左総頸動脈狭窄(けいどうみゃくきょうさく)症、錐体尖部(すいたいせんぶ)コレステリン肉芽腫などテーマは多岐にわたった。

一方、湘南鎌倉総合病院(神奈川県)の田中雅彦・脳神経外科部長は「自家末梢(まっしょう)血CD34陽性細胞移植による脊髄(せきずい)損傷再生療法への取り組み」と題し、今後の治療戦略について発表。従来、脊髄損傷に対する治療は、早期離床や症状の進行予防を目的とした固定術、リハビリテーションなどが中心で、失われた機能そのものを回復させる治療はなかった。しかし、近年になって脊髄損傷症例に対する再生療法が行われつつある。

田中部長は、同院が臨床研究で患者さん本人から抽出したCD34陽性細胞を、損傷した脊髄周辺に注入し、再生を試みる治療に取り組むことを明かし、その内容を紹介。虚血部位に集積し血管をつくる作用や抗炎症作用をもつCD34陽性細胞の特徴を示し、薬剤を患者さんに5日間、血中投与し、細胞数を増やしたうえで抽出、髄腔内に腰椎穿刺法による移植で脊髄の再生を促す方法を解説した。

対象となる患者像についても示し、年齢や受傷してからの期間、脊椎損傷の評価尺度などから設けた状態など、厳格な基準を設定していることを強調。3年間で6例の症例登録を予定している(研究実施期間5年間)ことを発表した。最後に「今後、症例を蓄積して先進医療の実現に向け研究を進めたいと考えています」と意欲を見せるとともに、参加者に協力を呼びかけた。

湘南鎌倉病院の権藤学司・副院長兼脳神経外科主任部長は、多発性骨髄腫での脊椎MRI(磁気共鳴画像診断装置)をテーマに発表。白根徳洲会病院(山梨県)の太田文人・名誉院長は「令和時代のt―PA治療」と題し、3月末に公表された「静注血栓溶解(rt―PA)療法適正治療指針第三版」により、t―PA治療の適応が拡大されたことをふまえ、自院の取り組みをベースに現在のt―PA治療に対する見解を示した。

脳卒中医療の最新動向も

業務の合間を縫って駆け付ける福岡病院スタッフも 業務の合間を縫って駆け付ける福岡病院スタッフも

講演では福岡病院の藤井清孝・特別顧問が「脳室系の解剖と手術」と題し、基本講演を行った。前半はマイクロサージェリーのための脳室系の微小外科解剖について、側脳室、第3脳室、中間帆、脈絡叢(みゃくらくそう)動脈、深部静脈系、脈絡裂、脈絡組織など各部位について解説した。後半は閉塞性水頭症、側脳室腫瘍、脳動静脈奇形、もやもや病など脳室内・脳室壁の病変の手術のアプローチについて説明。最後に第4脳室の外科解剖も説き明かした。

これらをふまえ、脳室系の構造と脳室壁を構成する神経構造物や血管の解剖と機能を理解し、病変の性状により直達(開頭)手術、神経内視鏡手術など最適な手術アプローチと術式の選択が重要と強調した。

プログラムの最後に九州大学病院の飯原弘二・脳神経外科教授を講師に招き、「脳血管障害の複合治療」と題する特別講演を行った。飯原教授は、脳卒中と循環器病の合併に言及し、心・脳血管病を「平均寿命と健康寿命の乖離(かいり)の最大の要因」と指摘。心・脳血管病を克服するために日本脳卒中学会と日本循環器学会が連携して作成した「脳卒中と循環器病克服5カ年計画」や、日本脳卒中学会や日本脳神経外科学会などが行っている協力研究「J-AS-PECT Study」を挙げ、包括的脳卒中センターの整備、脳卒中医療の評価・質の向上などへの取り組みを紹介した。

その後、自院で行っている脳血管障害のハイブリッド治療を披露。難しい症例を簡単な手技で治療できる時代の到来に期待を寄せた。福岡病院の吉田英紀・脳神経外科部長の挨拶で閉会した。

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