札幌東病院 道内初のハイブリッドER稼動 一刻争う重症患者さん救命率向上を期待
札幌東病院 道内初のハイブリッドER稼動 一刻争う重症患者さん救命率向上を期待
時間短縮する動線に強いこだわり
道内初のハイブリッドER。写真は扉を開けた状態。ガントリは自走式で奥のアンギオ室に移動
札幌東病院が導入したハイブリッドERは「2ルーム型」と呼ばれるタイプ。CT(80列)とアンギオの間に扉を設け、ふだんは、それぞれ独立したスペースとして使用するが、必要に応じて扉を開け、CTのガントリをアンギオ室に移動できる。これにより両装置を活用した検査や診断、治療が1カ所で実施可能だ。従来、ERで受けた患者さんの検査や手術は、他のフロアに移動しなければならなかったが、たとえば、CT検査に要する時間は従前の6分の1から3分の1に短縮するなど、患者さんの負担が少なくなる。
アンギオCT。ガントリの移動に要する時間は約20秒
動線にもこだわった。ハイブリッドERの導入にあたり、同院はER全体を改修。スペースを従来の約1.5倍に拡大するとともに、ERの入り口をハイブリッドERのアンギオ室に直進し、すぐに入室できる場所へと変えた。導入を手がけた松田律史・救急集中治療センター部長兼放射線診断科(画像・IVRセンター)部長は「アンギオ室に入って、すぐにCTを撮影し、そのまま処置に入るケースが想定されるような、とくに骨盤骨折など外傷では、より大きな恩恵が受けられると思います」と期待を寄せる。
プレ内覧会参加者に設備や環境、特徴などを説明する齋藤センター長(左)と松田部長(右から3人目)
また、同院はハイブリッドERの使用を救急だけでなく、通常診療でも想定。救急患者さんとは別に入室経路を確保した。松田部長は「定期的ながん治療など」を例に挙げ、「雑然としたERを通ると不安に感じるので、まったく異なる動線を確保し、普通の検査室に行くような状態をつくりました」と説明。入室時に患者さんの取り違えがないよう確認するための待機スペースも設置するなど、患者さんの心理的安全性と医療上の安全性の担保に余念がない。
ERの入り口からハイブリッドERには、すぐに入室可能(奥に見えるのがアンギオ室)
スタッフの負担軽減にも配慮。ハイブリッドERの導入でフロア間を移動することがなくなったり、術者や看護師の被曝を最小限に抑えるようにアンギオ室の設計を工夫したりしている。
「じつはハイブリッドERについては、2018年頃から私と齋藤博哉・画像・IVRセンター長をはじめ、救急と放射線診断科の2診療科の間で話は出ていました。ようやく実現できてうれしいです」(松田部長)。
地域の関係者対象にプレ内覧会
初療室はハイブリッドER(右手前)から数歩の距離
運用開始前の3月下旬に“プレ内覧会”を開催。近隣の放射線科領域の大学関係者や医師、コメディカルや消防署関係者と対象を変え、それぞれ1日ずつ行った。見学者は、実際にガントリが移動する様子などを見て一様に感心していた。
CT室とアンギオ室を仕切る扉は片側に開くタイプを採用。患者さんの動線など同院のこだわりのひとつ
随所で見学者に説明した齋藤センター長は「運用していくには皆さんのバックアップが必要です」と語り、松田部長も「地域から頼られたり、当院で働きたいといった声がどれくらいあったりするかが、本当の評価だと思っています。まだまだ油断できません」と気を引き締めている。
運用を開始してから1カ月が経過したが、これまで大きなトラブルもなく順調だ。
改修したER。院内外でハイブリッドERを掲示。白地に赤文字とシンプルながらも映えるデザイン
札幌東病院は、救急の受け入れ件数が年間9,000件超。松田部長は「札幌は恐らく日本屈指の単科病院が多い地域。“手も足も、けがをしている”、“熱があって腰が痛い”といった救急のケースは受け入れ先が少ない。その意味で今回のER改修は地域ニーズとも合致していると思います」と胸を張り、「うまく活用していきたいと思います。恐らく道内では一番形の良い救急外来。ハイブリッドERのモデルケースになれるように、世の中に発信できるよう頑張ります」と語気を強める。
齋藤センター長も「CTとアンギオを併用しながら、より高度なことができます。今までわからなかったことがわかり、ひとりでも多くの命を救うことにつながればと思います。救急科をはじめ、さまざまなスタッフと協力しながら活動していきたいです」と意気軒高だ。
同院はICU(集中治療室)やHCU(高度治療室)の改修も手がけており、12月にERを含む一連の工事が終了予定。あらためて内覧会を開く予定だ。
徳洲会グループでは、宇治徳洲会病院(京都府)がハイブリッドERを導入している。