ホンダジェット自主運航から1カ月 効率的な移動で多様な恩恵実感 徳洲会グループ
ホンダジェット自主運航から1カ月
効率的な移動で多様な恩恵実感
徳洲会グループ
本土⇔離島・へき地を“縮める”
「いろいろな可能性をホンダジェットは秘めています」と井上副院長
徳洲会が導入したホンダジェットは全長12.99m、乗員2人の場合、乗客5人まで搭乗することが可能。最大巡航速度は時速782km、航続距離は2,264km、最大運用高度は1万3,106m。空気抵抗を少なく抑えて速度と燃費の向上、騒音や振動の低減を図る機体デザインになっている。機内にはトイレも完備。座席には折り畳み式のテーブルも備え付けられ、仕事や食事が可能だ。
徳洲会では主に医療者の移動手段として活用。2年弱の試験運用を経て、今年2月1日に自主運航を開始した。以後、運航実績を順調に重ねている(表)。
格納庫から滑走路に向かうホンダジェット
とくに大きなメリットに挙げられるのが「移動の効率化」だ。徳洲会グループは、北海道から沖縄県まで全国に医療・介護施設を展開し、スケールメリットを生かす形で離島・へき地の医療・介護などに尽力。都市部を中心に各地からスタッフが訪れサポートしている。
従来、空路での移動手段は民間の定期旅客便と軽飛行機「徳洲号」だったが、定期旅客便は空席状況や便数、運航時間などによってはスムーズに移動できず、軽飛行機は鹿児島県と沖縄県に移動範囲(奄美群島を島伝いに運航)が限られていた。ホンダジェットの自主運航で、こうした課題はクリア。軽飛行機よりも速く、長い距離を飛行することができ、定期旅客便のように利用状況や乗り継ぎにともなう待機時間を気にかける必要がない。
ホンダジェットを活用し、各地で消化器内視鏡治療を行っている岸和田徳洲会病院(大阪府)の井上太郎副院長(内視鏡センター長)は「自院や各地で予定している治療を遅らせないために、通常の旅客機によるアクセスでは移動プランをいくつも考え、つねに100便くらい押さえている状況です。そんななか、ホンダジェットが選択肢のひとつに加わることで、とても助かっています」と強調する。
ストレスや自院空ける時間少なく
機体の随所に徳洲会のロゴ 多くの人が期待を寄せるホンダジェット くつろげるようにデザインされた機内
2月に与論徳洲会病院(鹿児島県)から福岡徳洲会病院に戻る際にホンダジェットに搭乗した同院の中村廉・外科医師も、「飛行時間は1時間半。以前は定期運航で半日くらいかかっていました。移動にともなうストレスや自院を空ける時間も少なくなり助かります」とアピール。
試験運用中にホンダジェットで与論病院をサポートした鹿児島徳洲会病院の保坂征司院長も「宇和島徳洲会病院(愛媛県)在籍中に依頼を受けて外科手術を行いました。通常は半日から1日かかる移動時間が3~4時間にまで短縮され、時間の有効活用ができました」と振り返る。「鹿児島県は多くの離島を有するものの、ヘリ搬送は時には時間を要し、搬送対象の病院も制限があります。小型ジェット機であれば、より広範囲を対象に迅速な医療提供が可能となり、徳洲会ならではの医療の充実を図ることができると考えます」。
奄美群島の病院長たちもホンダジェットに大きな期待をかける。「人手や経験が不足する離島にとって、とても心強いです」(与論病院の高杉香志也院長)、「これまで半日以上かけて応援に来てくださっていた先生方の移動に要する時間が大幅に短縮されるのは大きいです」(徳之島徳洲会病院の新納直久院長)、「都市部との間を飛ぶことで、“離島・へき地との間に横たわる溝”を埋める夢のような武器を手に入れることができたと思っています。島民の皆さんと、その夢を分かち合えることが大変うれしいです」(沖永良部徳洲会病院の玉榮剛院長)。
今後は北海道や東北など東日本への運航も予定。自主運航をサポートするエメラルド・エアー・サービスによると、徳洲会グループの移動路線は131区間に上り、国内大手航空会社の路線数に匹敵するという。同社の田口昭彦オペレーション統括は「南北に長く、多くの島が存在する日本の地理的環境下で、小型ジェットは医療の質向上に寄与できると確信しています」。
井上副院長も「移動の効率化は、患者さんと医療者の双方にメリットがあります。また、平時だけでなく、災害医療に活用する方法もあるかもしれません。機内に余裕があればコメディカルを含めたチームでの移動や麻酔科医の搭乗、医療器材の持ち運びなどができ、離島・へき地でできる診療が広がると思います。いろいろな可能性を秘めています」と展望する。