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南部徳洲会病院 放射線治療後の有害事象低減 「ネスキープ」用い大腸がん肝転移例に

2024.01.17

南部徳洲会病院
放射線治療後の有害事象低減
「ネスキープ」用い大腸がん肝転移例に

南部徳洲会病院(沖縄県)は放射線治療用吸収性組織スペーサ「ネスキープ」を用い、大腸がんの肝転移に対する体幹部定位放射線治療を実施した。ネスキープを用いたスペーサ留置術は、悪性腫瘍と正常臓器の間にスペースをつくり、正常臓器への照射線量を低減する治療法。2019年12月に粒子線を用いた放射線治療に対し保険適用、23年9月にはX線を用いる場合にも保険適用となった。

「今後も新しい技術を積極的に導入し、地域に貢献していきたい」と橋本医長

ネスキープは、腹腔内もしくは骨盤内の悪性腫瘍に放射線治療を実施する際、悪性腫瘍に消化管などが近接して治療困難な患者さんに対し、根治線量の照射を可能とすることを意図して開発。悪性腫瘍と近接する消化管の間にネスキープを留置し、スペースを確保することで、正常臓器に対する照射線量を低減し有害事象を回避する(図)。また、ネスキープは留置してから2カ月ほどで体内への吸収が始まり、約8カ月後には消失するという特徴をもつ。

同様の治療として、同院ではSpace OAR(ハイドロゲル=3次元の網目構造内に水分を含んだ物質)を用いたスペーサ留置術(18年6月に保険適用)を導入しているが、これは前立腺がんのみに適用される。一方、ネスキープは腹腔内もしくは骨盤内の悪性腫瘍が対象であり、適用範囲が広い。橋本成司・放射線治療科医長は「これまで悪性腫瘍の位置が正常臓器と近接しすぎて、放射線治療の適用外となっていた患者さんに対しても治療の幅が広がります」と期待を寄せる。

同院での1例目は23年11月に実施。大腸がんの肝転移の患者さんで、悪性腫瘍の位置が胃と近接していたため放射線治療の適用外となり、手術も厳しい状況だった。そこで放射線治療科から、外科の主治医にネスキープの使用を提案。橋本医長は「胃は放射線に弱い臓器であり、放射線治療後の有害事象が出やすい。そのためネスキープを用いた治療が最適と考えました」と振り返る。

主治医がネスキープを留置した後、サイバーナイフを用いて5回に分けて放射線治療を実施。大腸がんの肝転移に対しては、定位放射線治療により7~8割の局所制御が得られるとの報告がある。同治療後は主治医に逆紹介し経過観察しているが、現時点で同治療による有害事象を認めていない。

悪性腫瘍と正常臓器 間にスペースつくる

橋本医長は「ネスキープは、トモセラピーやサイバーナイフで行う定位放射線治療と親和性が高いと考えます。定位放射線治療では、照射する放射線量が大きいので、悪性腫瘍と正常臓器が離れているほうが、より治療効果が高くなります」と強調。さらに「放射線治療は主治医からの紹介がなければ行うことができません。また、ネスキープを体内に留置するには、全身麻酔下での手術が必要になり、主治医が施術したうえで患者さんの紹介を受けます。放射線治療の幅が広がったぶん、主治医とより密接な連携が必要になります」と力を込める。

また同院では、前立腺がんの放射線治療に対し、Space OARを用いたスペーサ留置術も並行して行っている。前立腺は直腸と近接しているため、前立腺に放射線を照射すると直腸にも当たり、出血などを来すことがある。同留置術を併用すれば、直腸と前立腺の間に10㎜前後のスペースができ、直腸が高線量域に触れないようにすることができる。注入したSpace OARは痛みを引き起こすことなく、放射線治療の実施期間中は注入した部位にとどまり、放射線治療の終了後は徐々に体内に吸収される。

同留置術の導入により、前立腺がんに照射する放射線量をアップ、照射回数を減らすことが可能になった。19年7月に1例目を実施して以降、順調に症例数を伸ばしている。同院では腰椎麻酔下でSpace OARの挿入を実施、より痛みの少ない留置を実現している。

これらスペーサ留置術の併用は、放射線治療を受けるために離島から訪れた患者さんの負担軽減にも寄与する。離島からの患者さんの場合、入院での放射線治療となるが、治療日数が短くなり、かつ治療後の有害事象が起こらなければ、それだけ早期退院につながる。

橋本医長は「放射線治療医だけではなく、他診療科の医師や多職種スタッフの協力により、患者さんに、より良い治療を提供できます。今後も新しい技術を積極的に導入し、地域に貢献していきたい」と意気軒高だ。

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