南部徳洲会病院 放射線治療の計画時間大幅短縮 AI支援ソフトを沖縄県で初導入
南部徳洲会病院
放射線治療の計画時間大幅短縮
AI支援ソフトを沖縄県で初導入
「医師の働き方改革」にも寄与
「これまで以上に患者さんの診察に注力できます」と橋本医長
放射線治療をする際には、患者さんを診察した後、CT(コンピュータ断層撮影)を撮影し、まず画面上で標的となる腫瘍や、腫瘍周囲の正常臓器の輪郭を手描きでなぞる「コンツール」という作業を実施。この図面をもとに、照射する放射線の分布や量をパソコン上で計算する。
放射線治療では、腫瘍の輪郭に対しギリギリの部分ではなく、周囲の浸潤や体動によるずれのリスクを考え、少し広めに照射するのが一般的。臓器ごとに耐容線量(障害を受けず、長期間にわたり耐え得る線量)が決まっており、腫瘍周囲の正常臓器にはその量を超えないようにしたうえで、かつ腫瘍には十分な線量を照射するように調整する。コンツールは手術に置き換えると、メスで切ったり避けたりする範囲を画面上で正確になぞる作業だ。
橋本成司・放射線治療科医長は「治療計画を立てるにあたり、ベースとなるコンツールの作業はとても重要で、疾患によってはガイドラインで範囲が細かく決まっています。目安として、1カ所の放射線治療につき30分程度必要で、治療件数が重なってくると大きな負担になります」と明かす。
そこで同院では、放射線治療計画のうちコンツールの作業をAIで支援する「SYNAPSE Radiotherapy」を導入、作業時間の大幅短縮を図った。同院は2012年、トモセラピーによる放射線治療をスタート。当時の治療件数は年間250件ほどだったが、20年6月にはサイバーナイフを導入、2台体制で放射線治療を行い、22年には年間749件まで治療件数を伸ばした(図)。今年7月にはトモセラピーを最新型の「ラディザクトX9」に更新、さらなる件数アップが見込まれている。
ソフト導入前は医師が手作業でコンツール
橋本医長は「これまで手作業で行っていたコンツールをAIが代替できる理由のひとつとして、腫瘍は患者さんによって大きさや形が違いますが、正常臓器はある程度、位置も形も共通していてパターン化できます。AIがそれを学び、再現できるのだと考えます」と説明。
さらに「従来のコンツールソフトもオート機能はありましたが、正確さに欠けるため、消して自分で描き直す作業が必要となり、二度手間となっていました。SYNAPSE Radiotherapyは正確で修正いらずで、とても助かっています。また、このソフトは国産で、メーカーの担当者に要望を伝えると、フィードバックが早く、サポートも迅速なのがありがたいです」と強調。
ソフト導入により放射線治療計画にかかる時間が大幅減
同ソフトの導入により、医師がパソコンに向かって作業する時間が減り、これまで以上に患者さんの診察に注力できるようになった。また、コンツールの後に行う線量の分布図の作成にも時間をかけられ、より正確で、きめ細かい治療が可能になる。同時に「医師の働き方改革」にも寄与。今後、さらに治療件数が伸びた場合でも、同ソフトを駆使し、作業時間を大幅に短縮できるため、「時間外労働の上限規制」の順守に直結する。
YouTube再生回数1.8万回超
南部徳洲会病院の公式YouTubeチャンネル
今後も集患に注力していく構え。同院の公式YouTubeチャンネルでは、放射線治療装置や、疾患ごとの放射線治療の概要を説明する動画を掲載しているが、橋本医長が登場した「前立腺がんのサイバーナイフ治療」と題する動画は、再生回数1.8万回を超えている。この動画を見た患者さんが、沖縄県外から来院したこともあるほどだ。
橋本医長は「YouTubeは集患に寄与することがわかりましたので、これからも積極的に活用していきたいと考えます。また、当院は離島からの患者さんも受け入れており、そのために治療期間を短縮できるようにプロトコルを見直しました。今後は各離島をめぐって医療講演を行うなど、情報提供にも力を入れていきたいと思います」と意気軒高だ。