井上・岸和田病院副院長 遠隔診療支援 着実に発展 3施設同時ESDプロクタリング
井上・岸和田病院副院長
遠隔診療支援 着実に発展
3施設同時ESDプロクタリング
名瀬病院の会議室で3施設同時に支援する井上副院長 共有画面に文字で会話。瀬戸内病院の星川院長(右上)をねぎらう井上副院長と、謝意を示す星川院長
井上副院長が3病院で同時進行するESDをサポートしたのは10月30日。当日の朝、関西からドクタージェットで出発し、昼前には奄美大島に到着。午後から名瀬病院で支援を開始した。
症例は、いずれも早期がんに対するESD。瀬戸内病院は肛門管から下部直腸にかけて広がる早期大腸がんで、状態によっては外科手術となり人工肛門が避けられないケース。徳之島病院と名瀬病院は胃の早期がんだが、徳之島病院のケースは病変が大きく、さらに、がんの範囲を診断するのが困難だった。
これらに対し、井上副院長は名瀬病院の会議室からサポート。各病院の手術室とWEBで通信しながら内視鏡画像の共有とコミュニケーションを図り指導。共有している画像には、専用のペンを使うことで、リアルタイムで文字を書いたり線を描き込んだりすることも可能。井上副院長が血管の位置、切除・剝離のラインや方法などを声だけでなく文字や線でアドバイスすることで、術者は瞬時に理解・認識できる。さらに、移動式ワイヤレスカメラを用いて補助デバイスなどの詳しい使い方も説明。
「まるで聖徳太子のよう」
徳之島病院でESD治療を行う古田朗人医師。 井上副院長が適宜アドバイス
この日、井上副院長は最も大きい60インチのモニターを会議室に設置。手元にもう1台のモニター(27インチ)を置き、共有している内視鏡画像に書き込むなどして瀬戸内病院にいる術者の星川聖人院長をサポート。
並行して井上副院長は徳之島病院と名瀬病院に自前のタブレット端末(12.9インチ)を使い診療支援。適時、画面を切り替えながら指導した。名瀬病院では、必要に応じて井上副院長が手術室に赴き、直接、アドバイスを送る場面も見られた。
各現場からの呼びかけなどを聞き逃さないよう音声にも配慮。井上副院長は、左耳で瀬戸内病院からのスピーカー音声や名瀬病院の会議室での音を聞き、右耳にはワイヤレスイヤホンを装着し、徳之島病院や名瀬病院治療室の音声を聞く。イヤホンのノイズキャンセリング機能を使い外部(瀬戸内病院や名瀬病院会議室の音声)の音をシャットダウンして聞こえやすくする工夫も欠かさない。反対に、井上副院長の声はマイクのオン・オフを随時使い分け発信する。
治療は3施設とも無事に終了。とくに瀬戸内病院は難しいケースで時間を要したものの、肛門機能を失うことなく治療を終えた。3施設をサポートしている間も、スマートフォンのメッセージアプリを介し、全国各地の徳洲会病院に応援に入っている岸和田病院消化器内視鏡チームメンバーからの相談に対応。一日のメッセージ受信件数が1,000件を超えることもあるという。終了後、井上副院長は「無事に治療が終わりほっとしています。スタッフからは“聖徳太子太郎”と命名されました」と笑顔。
最新の通信技術を利用
今回、新たな試みとして、通信に衛星インターネットを使用。これは、人工衛星を介する通信技術で、回線の敷設が物理的に難しい山の上などからでもインターネットにアクセスできる。なかでも今回使用したのは低い軌道の衛星で構築した通信網のため、低遅延かつ高速インターネットが可能な最新のタイプだ。
井上副院長は「空さえ見えれば、遠隔で内視鏡診療支援ができる時代が到来しました」と指摘。ただし、「実際に実施すると名瀬病院のインターネット接続に課題があることもわかりました。次回は方式を切り替えて行う予定です」と意欲を見せる。
井上副院長と10年前から遠隔での治療サポートについて試行錯誤してきた徳之島病院の 野地亮平・臨床工学科係長(臨床工学技士=CE)は「ようやく実用的なところまで来ました。ニーズに時代が追い付いてきたという気持ちです」と吐露。井上副院長も「野地CEとともに自腹・自作で取り組み、ようやくここまで来たという思いです」と胸の内を明かし、「徳洲会をはじめ協力してくださった皆さんのおかげです。夢のなかでは、画面から僕の手が飛び出すほどのシステムを考えています」と想いは尽きない。