徳洲会グループ 「遠隔麻酔支援」スタート 安全でスムーズに手術サポート
徳洲会グループ
「遠隔麻酔支援」スタート
安全でスムーズに手術サポート
将来的には特定看護師の支援も
「現場の麻酔科医師のストレス軽減にも寄与します」と野村室長
麻酔管理とは、手術中の患者さんの痛みや不快感を取り除き、循環・呼吸など全身状態を最適に保つために、投薬の調整などを行い、さらに快適な術後状態につなげることをいう。そのために麻酔科医師は麻酔手技に加え、術中に使用する薬を先回りして準備、麻酔記録を記載、さまざまなデータを確認し、患者さんの全身状態を把握するなど多くの作業を同時進行で行う。
野村室長は「麻酔管理に用いるデータは多岐にわたり、ほかの作業をしていると、どうしても見落としてしまうことがあります。また、ひとりだと術中に何かあっても誰にも相談することができません。こうした状況をサポートしたいと考えました。大規模病院であれば、麻酔科医師が2人体制で手術に臨むケースもありますが、とくに離島・へき地などにある小規模病院では、常勤の麻酔科医師がひとりしかいない、またはグループ病院からの応援で成り立っていることが多いのが現状です」と意図を説明する。
支援側の画面では多様な情報を一度に確認できる
遠隔麻酔に用いるシステムには、手術室全体を映す固定カメラや支援側が遠隔操作できるカメラ、マイク、スピーカーに加え、映像キャプチャーコンバーターが複数搭載されており、手術室にある麻酔チャート(記録)、心電図、人工呼吸器、必要な場合は内視鏡画像などのモニター画面を共有できる。また、同システムは自由に移動もできるため、術後管理や病棟で遠隔カンファレンス(症例検討)をする時などにも活躍する。
支援側はパソコンやタブレット、インターネット環境さえあれば、どこでも対応できる。パソコン画面には、映像キャプチャーコンバーターを介して映し出す複数のモニター画面や、カメラ映像がすべて表示でき、必要に応じて拡大し確認可能。支援側から操作できるカメラは左右350度、上下90度の可動域と光学12倍ズームにも対応している。徳洲会インフォメーションシステム(TIS)の協力により、将来的には閉鎖系ネットワークでつなぎ、セキュリティーを強化する。
遠隔麻酔支援に用いるシステムタワーを手術室に設置
野村室長を中心に準備を進め、5月末に出雲病院での局所麻酔下で行う手術時に試験運用を開始。6月12日には乳がんに対する乳房部分切除、7月10日に肺がんに対する胸腔鏡下肺部分切除(ともに全身麻酔下)で遠隔麻酔を行った。野村室長は人工呼吸器の換気量の設定値と実際の数値が違うことに気付き、気管チューブのリーク(ガス漏れ)を指摘するなどアドバイスした。
野村室長は「遠隔麻酔により、手術の安全性の向上、現場の麻酔科医師のストレス軽減に寄与します。支援する際には、手術を行う病院の非常勤医師として、現場で麻酔管理を経験していることが必須。スタッフと信頼関係を築くこと、現場の環境を把握すること、患者さんの個人情報を見る権限をもつことが必要です。こうしたことができるのがグループ内で支援できる徳洲会の強みです」と強調する。
今後は同システムを中部徳洲会病院(沖縄県)、名瀬徳洲会病院(鹿児島県)、徳之島徳洲会病院(同)にも設置する予定。中部徳洲会病院では「術中麻酔管理領域パッケージ」の特定行為研修を履修した看護師が、実際に麻酔管理をする際、医師による遠隔支援の有用性や安全性を臨床研究で検証する計画だ。
離島病院に麻酔科医師の応援を出している病院でも、同システムの活用を企図している。応援先の病院で若手医師がひとりで麻酔管理を行う際、派遣元の病院の上級医師が遠隔麻酔をすれば心強い。こうした支援体制を構築できれば、応援に出せる医師の幅が広がる。また、離島病院では、緊急手術などで麻酔科専門医ではない医師が麻酔管理をするケースもあるが、遠隔麻酔によって安全性が向上する。
野村室長は「6月に開催した徳洲会麻酔科医会でも遠隔麻酔について紹介しました。今後、このシステムを活用して、人材不足の解消、離島・へき地病院への支援などにもつなげていきたい」と抱負を語る。