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湘南藤沢病院機能的神経疾患センター 音楽家ジストニアを初治療 プロのギター奏者がRFで改善

2023.06.26

湘南藤沢病院機能的神経疾患センター
音楽家ジストニアを初治療
プロのギター奏者がRFで改善

湘南藤沢徳洲会病院(神奈川県)機能的神経疾患センターは、音楽家ジストニアを発症した患者さんを初めて治療した。音楽家ジストニアとは、楽器演奏時の特定動作でのみ身体のコントロールが効かなくなる病気で、動作特異性ジストニアの一種。患者さんはプロのフラメンコギター奏者で、長い間、右手が思うように動かないことに悩んでいたが、高周波脳凝固術(RF)を行い、改善を認めた。同センターは今後、スポーツ選手が発症するイップスに対する治療も行う。

今後はスポーツ選手のイップスも

術中に患者さんを覚醒させ実際にギターを弾いてもらい治療効果を確認

患者さんはプロのフラメンコギター奏者として、20代から25年以上スペインで活躍した後、現在は日本を中心に活動。約15年前から右手の薬指にジストニアを発症、日常生活に支障はないものの、ギターを弾く時だけ自分の思いとは違う方向に力が入り、指のこわばりがあった。ほかの指で補いながら演奏を続けているが、プロとして思うように演奏できないことに悩みを抱えていた。

これまでにかかった医療機関では「気持ちの問題」と言われたり、リハビリテーションや内服治療を受けたりしたが、十分な効果が出なかった。湘南藤沢病院機能的神経疾患センター主催の勉強会に参加した診療所の医師が、同院を紹介したことで、治療を受けることになった。

外来では、実際にギターを演奏してもらったが、指の動きが速すぎてジストニア症状が確かめられなかったため、動画を撮影してスロー再生で確認したところ、右手の薬指が弦を弾いておらず、本来4音鳴るべきところ、3音しか鳴っていなかった。

山本一徹センター長は「音楽家ジストニアという病気を知らない医師も多い。診断ができず、治療法もわからず、患者さんは途方に暮れてしまいます。今回は、たまたま当センター主催の勉強会に参加した先生に紹介していただけましたが、今後も周知活動が大切であると痛感しました」と振り返る。

実施したRFは、脳に細い電極を入れ、先端の温度を上げて患部を焼灼(熱凝固)する治療法。RFを実施している施設は数少なく、徳洲会グループでは同院のみ。

手術の流れは、頭蓋骨に小さな穴を開けた後、脳に電極を挿入し、まず試験的に電気刺激を加え、治療効果と合併症の有無を確認してから、出力を上げ焼灼する。手術中、頭蓋骨にドリルで穴を開ける工程などで、患者さんの心的負担を軽減するため、同センターでは手術前半を鎮静下で行う。その後、試験刺激を行うタイミングで鎮静状態から元に戻し、そのまま覚醒下で手術を進める。

山本センター長は「焼灼部位の確定には、知識に加え治療経験や判断力が重要ですが、私は留学中に多くの手術を経験してきました。安全にかつ高い効果が得られるように、近くにある正常領域を避けギリギリを見極め、微調整しながらターゲット設定します」と説明する。

今回の手術は、ギター演奏ができるようになることが目的だったため、手術室にギターを持ち込み、試験刺激の後、実際にギターを弾いて治療効果を確かめた。山本センター長は「今回は残念ながら、患者さんの疲労感が強く、手術中に明確な改善を確かめられませんでした。しかし、手術の5~6時間後に、もう一度ギターを弾いてもらい、動画を撮影してスロー再生したところ、術前に、こわばっていた右手の薬指が伸びていることが確認できました」と明かす。

プロの演奏家の洗練された指の動きを取り戻すには、長年思うように動かなかった指を使用した演奏練習を重ねる必要がある。患者さんは「良くなっていく未来が見えるので、楽しく練習できそうです」と笑顔を見せていた。

今後、同センターはスポーツ選手が発症するイップス(運動時の特定動作を行う際に見られる身体の異常)に対する治療も行う。これに対してもRFは有力な治療手段となる。術中の試験刺激の後、野球選手であればボールを握ってもらう、ゴルフ選手であればクラブに見立てた棒を振ってもらうなど、症状に応じた工夫をして、治療を進める計画だ。

山本センター長は「体が自分の思いどおりに動かないという悩みを抱えているプロの演奏家やスポーツ選手もいます。気持ちの問題とあきらめず、治療方法があることを知っていただきたいです。そのためにも広報活動に注力していきたいと思います」と意気盛んだ。

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