内視鏡手術支援ロボット「ダヴィンチ」 直腸がんで200例突破 千葉西病院
内視鏡手術支援ロボット「ダヴィンチ」
直腸がんで200例突破
千葉西病院
「なるべく短時間で手術できるよう工夫しました」と小林部長
ダヴィンチは内視鏡(腹腔鏡など)や鉗子を装着する4本のアームをもつ「ペイシェントカート」というロボット部分と、それを操作する「サージョンコンソール」、手術中の画像を映し出し、手術スタッフとも共有できる「ビジョンカート」から構成。術者は視野を拡大できる三次元の立体映像を見ながら、遠隔操作で手術を行う。
ダヴィンチの鉗子は可動域が広く、人の手では困難な屈曲や回転を実現できるのに加え、コンピュータ制御下で、ぶれの少ない安定した動きが可能。精緻な低侵襲手術をより安全に施行でき、出血量の低減や術後の早期回復などに寄与する。
ダヴィンチによる直腸がん手術の様子
保険適用は年々拡大しており、12年に前立腺がんに対する前立腺全摘術が適用となったのを皮切りに、16年に腎臓がん、18年に縦隔がん、肺がん、食道がん、胃がん、直腸がん、膀胱がん、子宮体がん、子宮筋腫、心臓弁膜症が加わった。20年には膵臓がんの手術や腎盂形成術などが対象となり、22年には咽頭がん、喉頭がん、総胆管拡張症、肝切除、結腸がん、副腎摘出、褐色細胞腫、尿管がんに適用が拡大した。
千葉西病院は16年5月に「ダヴィンチXi」を導入し、まず泌尿器科分野でロボット手術を開始。その後、心臓血管外科、外科(消化器外科)でも運用が始まり、2台目の「ダヴィンチXi」を導入、手術の待ち日数を短縮した。
同院外科では、18年4月からダヴィンチによるロボット手術が消化器系がんに適用拡大したことを受け、同手術に取り組み始めた。それまでも積極的に腹腔鏡下手術を行っていたため、ロボット手術への移行はスムーズだった。現在、同科では直腸がん、胃がん、さらに22年4月に保険適用された結腸がんに対し、ロボット手術が実施可能。難易度の高い直腸がんは全例ロボット手術を行っているが、結腸がんは今後徐々に症例を増やしていく予定だ。
小林昭広・外科部長は「ロボット手術は、精度は高いが、時間がかかるというのが定説ですが、患者さんの負担軽減のためにも、なるべく短時間で手術ができるように試行錯誤しています」と明かす。たとえば血管を処理する時などに、なるべくロボットアームの鉗子交換の回数を減らすなど工夫している。
小林部長はロボット手術のメリットのひとつに、ロボットアームで術者の思いどおりの動きが実現できることを挙げる。たとえば肛門近くにがんが発生すると、人工肛門造設を余儀なくされるケースが多いが、ダヴィンチを用いれば難易度の高い肛門温存手術の精度が上がる。
狭い骨盤内でも、従来の腹腔鏡下手術に比べ2cmほど肛門側まで手術操作が可能。「この2cmが重要になります。おかげで多くの症例に対し、肛門側からの操作なしで肛門温存手術が可能となりました」とアピールする。
「医師の働き方改革」にも貢献
サージョンコンソールで遠隔操作する小林部長
「医師の働き方改革」にも寄与。通常、腹腔鏡下手術は術者と助手に、カメラ持ちを加えた3人の医師で手術に参加するが、ロボット手術であれば、カメラはロボットアームが保持するため、医師は2人ですむ。しかも、カメラ操作は術者が遠隔で行うため、自分の思いどおりに動かすことができ、腕が疲れてカメラがぶれることがない。
また、小林部長は「医師の手術のレベルアップも、従来の腹腔鏡下手術と比べロボット手術のほうが早いと思います」と指摘する。現在、同科でロボット手術ができるのは小林部長を含め3人。今後は後進の育成にも注力していく計画だ。
ダヴィンチによる新しい治療の導入にも積極的だ。直腸がんに対し、腹腔鏡下での超低位前方切除術(SLAR)と内肛門括約筋切除術(ISR)が22年4月に保険適用されたことを受け、日本内視鏡外科学会はロボット手術によるSLARとISRの保険適用を目指し、大規模な臨床試験を開始、同院も参加している。
小林部長は「当院では、ロボット手術を含め腹腔鏡下手術から開腹手術に移行した症例は、1例もありません。千葉県内で、直腸がんに対するロボット手術件数がトップを維持するよう、さらに症例数を増やし、地域に貢献していきたいです」と意欲的だ。