膵がん 新たな予後予測モデル作成 札幌東病院医学研究所 北大や旭川医大などと共同研究
膵がん
新たな予後予測モデル作成
札幌東病院医学研究所
北大や旭川医大などと共同研究
ゲノム解析を利⽤し成果
「膵がん診断・治療に貢献できる活動を続けたい」と小野・主任研究員(左)、杉谷職員
膵がんは、気付いた時にはかなり進行しているケースが多いため、あらゆるがんのなかでも診断・治療の難しさが指摘されている。唯⼀、⻑期⽣存が期待できるのが外科切除だが、再発するケースが多く予後は極めて悪い。ただし、近年は⻑期⽣存例が確実に増えており、現在、その要因を明らかにする研究が世界各国で行われている。
札幌東病院医学研究所もそのひとつ。2012年に文部科学省から認可され、以後、科学研究費(科研費)助成事業を通じ、がんの予防、早期発見・早期治療などに関する研究を行っている。
今回、作成した膵がんの予後予測モデルは15年から北海道大学、旭川医科大学、東北大学と取り組んできた共同研究の成果だ。研究では北⼤病院の膵がん⼿術310例のうち、「⻑期⽣存例(術後5年以上)」32例と「早期再発死亡例(術後再発し術後6~12カ⽉以内に死亡)」34例を対象に、まず膵がん原発巣の遺伝子異常を検証。
検体からDNAを抽出し、独自に選択した8種のがん遺伝⼦と10種のがん抑制遺伝⼦を解析した結果、とくにTP53の変異タイプが予後に大きく関わることがわかった。TP53は、がん抑制遺伝⼦。アミノ酸と連結してタンパク質を生成し、がんを抑制する。膵がんでは高頻度で変異する4つの遺伝子(通称ビッグ4)のひとつだ。
小野・主任研究員は「端的に言うと、TP53が傷付いて変異すれば、きちんとしたタンパク質がつくられなくなるわけですが、解析したところ、傷の有無だけでなく、傷の入り方も予後に影響する可能性が示されました。海外のデータで検証もしました」と説明する。
この結果をもとに、TP53と同様、ビッグ4のひとつでもあるがん抑制遺伝⼦のSMAD4の変異の有無、膵がんの腫瘍マーカー(細胞のがん化で血液中に増える特定の物質の総称)であるCA19-9の臨床データを⽤いて予後を予測するモデルを作成。さらに膵がん⼿術⻑期⽣存例11例と早期再発死亡例10例で検証した結果、TP53の変異形式、SMAD4の変異、CA19-9の値を組み合わせたスコアが予後予測に関連し、同モデルの有用性が示された。
「各要因がどの程度影響するのか、ウエイトの大きさを解析、検証するのに苦労しました」と小野・主任研究員。とくに予測モデルの構築、評価を行うなかで、同研究所で中心的な役割を担った杉谷歩・生物統計部職員に謝意を示した。「当研究所のプロジェクトだけではなく、ふだんから院内の各部署、徳洲会グループの医師などに医療統計のコンサルティングを行っています。まさに統計のスペシャリスト。ゲノムを解析する最新機器と、適切に解析できる人材がそろっているのが当研究所の強みです」。
杉谷職員は7年間に及ぶ同研究を「最終的に結果を発表することができて良かった。現場で利用できるものをと励んできました」と振り返った。
ともに今後は、膵がん診断時に採取する組織のゲノム解析結果と採⾎結果を⽤いて同モデルが治療の選択に貢献することを期待している。「積極的な治療介入を行うべきかなど、治療戦略を決めるうえで、ひとつの判断材料になると思います。従来の画像診断や臨床病理学的な情報、またCA19-9は膵がん治療の主軸として利用されますが、さらに遺伝子変異の情報を加え総合的に評価することで、予後予測の精度がさらに上がると思います」(小野・主任研究員)。
同研究の成果は論文として、「Predictors of Long Term Survival in Pancreatic Ductal Adenocarcinoma after Pancreatectomy: TP53 and SMAD4 Mutation Scoring in Combination with CA19-9」(膵癌術後の⻑期⽣存予測:TP53とSMAD4の変異とCA19-9を⽤いて)というタイトルで学術誌『Annals of Sur-gical Oncology』に掲載。