診療の質アップへ 肺がん研究会・症例検討会 徳洲会呼吸器部会
診療の質アップへ
肺がん研究会・症例検討会
徳洲会呼吸器部会
開会挨拶を行う瓜生部会長。左は市橋部長 ホスト施設の八尾病院からは初期研修医も参加(手前右側の2人)
呼吸器部会の部会長を務める瓜生恭章・八尾徳洲会総合病院(大阪府)副院長兼腫瘍内科部長の開会挨拶に続き、口演を行った宇治徳洲会病院(京都府)の佐井那月・呼吸器内科専攻医は、維持透析中の肺扁平上皮がん患者さんに対し、Carboplatin+nab-paclitaxel併用療法を行い奏効した症例について報告した。
続いて瓜生部会長が口演。呼吸状態が急激に悪化し人工呼吸器による管理の下、化学療法を行った肺腺がん患者さんの症例で、併発した感染症の治療のため抗菌剤投与など行いながら化学療法を継続。徐々に呼吸状態が改善し、50日目に人工呼吸器を離脱、77日目に退院に至った。
千葉西総合病院の小嶺將平・内科医師は「緩徐な経過を示し気管支粘膜に病変を認めた抗MDA5抗体陽性間質性肺炎の一例」をテーマに発表。抗MDA5抗体は、急速進行性間質性肺炎の合併マーカーとして知られる自己抗体の一種だ。
大隅鹿屋病院(鹿児島県)の中原梢・呼吸器外科医師は「10年間の経過を観察し得た異型肺カルチノイドの一例」と題して発表。異型肺カルチノイドなど神経内分泌腫瘍は悪性度に応じた病理組織学的分類によって臨床的特徴や治療反応性が大きく異なることから鑑別の重要性を指摘した。
八尾病院の市橋良夫・呼吸器外科部長は「肺癌術後乳び胸を来たし、5000㎖/日の排液を認め治療に難渋した1例」をテーマに発表。乳び胸は、脂肪などが混ざったリンパ液が胸管から漏れ胸腔内にたまる病態。リンパ管造影による胸管の造影などが困難だったため開胸リンパ管縫合閉鎖術を行った。
湘南鎌倉総合病院(神奈川県)の大村兼志郎・呼吸器外科医師は、二相型悪性胸膜中皮腫に対し、導入化学療法後に同院で1例目となる胸膜切除/肺剝皮術の実施例を報告した。同術は肺機能の温存が可能であることから、QOL(生活の質)を維持しやすい術式だ。
レクチャーは2題。湘南鎌倉病院の下山ライ副院長兼オンコロジーセンター長は、標準レジメン(治療計画)を用いたがん診療の10年間分の臨床データを解析する“徳洲会リアルワールドデータ・プロジェクト”を紹介。「徳洲会グループの膨大な量のデータを実臨床に還元するチャンスです」と同プロジェクトへの参画を呼びかけた。
もう一題は、八尾病院の緒方嘉隆・集中治療部部長が「重症COVID-19肺炎に対するV-V ECMOの管理」と題して発表。V-V ECMOは静脈から脱血し、人工肺を通してガス交換を行い、静脈に送血するシステムで、肺保護が目的だ。V-V ECMOの適応基準や自発呼吸関連肺障害のメカニズムなどを解説したうえで、V-V ECMOを使用したCOVID-19の症例を提示。
「有効な治療法が確立されていないウイルス性肺疾患に関して、ECMO導入後のlung rest(肺を休めること)そのものが、支持療法ではなく、治療法となり得る可能性があります」と示唆した。
各演題とも活発な質疑応答を行った。瓜生部会長は総評で各演題を振り返り、参加者や演者、座長、事務局に謝意を示し、閉会の挨拶を行った。