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徳洲会グループ「HCVサーベイランスプロジェクト」 C型肝炎の撲滅へ地道に活動 工夫凝らし潜在患者さん抽出

2022.07.05

徳洲会グループ
「HCVサーベイランスプロジェクト」
C型肝炎の撲滅へ地道に活動
工夫凝らし潜在患者さん抽出

徳洲会グループは2019年に「C型肝炎ウイルス(HCV)サーベイランス(調査)プロジェクト」を立ち上げ、潜在的なC型肝炎患者さんのフォローに取り組んでいる。C型肝炎は慢性肝炎や肝硬変、肝臓がんなど、さまざまな疾患のリスクになることが指摘されているが、自覚症状がないため、感染しても気付きにくい。プロジェクト発足から2年が経過するなか、今年3月に開いた「肝炎コーディネーター研修会」では、各地のグループ病院が活動内容や成果を報告した。同研修会で発表した病院を中心にグループの取り組みを紹介する。

グループで取り組む意義を強調する岩渕センター長

C型肝炎は、HCVの感染によって引き起こされる肝臓の病気。B型肝炎同様、慢性化しやすく、発症すると全身の倦怠感や黄だん、食欲低下、腹痛などをともない、さらに進行すると肝硬変、肝臓がんに至るケースも少なくない。ただし、インターフェロン(免疫系や炎症の調節などに作用する薬)や経口の抗ウイルス剤による治療で、現在は“ほぼ完治”が見込める疾患となっている。

感染者数は減少傾向にあるが、感染しても多くは無症状のため、HCV感染に気付かない、もしくはHCV抗体陽性にもかかわらず治療を受けていない感染者が散見され、国内には推定100万人以上の患者さんがいるとも指摘されている。2014年には、ウイルス性肝炎に感染しながらも、継続した治療を行っていない人が少なくとも53万人いるという厚生労働省の推計値を一部のメディアが報じ、注目を集めた。湘南藤沢徳洲会病院(神奈川県)の岩渕省吾・肝胆膵・消化器病センター長は「現在、各医療機関では入院時をはじめ健診、内視鏡や循環器(カテーテル検査)、外科的診療、救急診療、透析など多くの診療科で、さまざまな機会にHCV抗体を測定しています。ところが、HCV抗体陽性にもかかわらず、HCV感染をチェックしていないケースが多々あります」と指摘する。

こうした背景から徳洲会グループは、19年にHCVサーベイランスプロジェクトを発足。岩渕センター長をプロジェクトリーダーに、まず湘南藤沢病院をパイロット(試験)施設として開始した。

コロナ禍で中止していた肝炎コーディネーター研修会を今年3月にオンラインで再開。実施は3年ぶり カルテを確認する川田・副薬局長(左)と、患者さんリストを作成する事務職員

岩渕センター長は「HCV抗体は過去の一過性感染や抗ウイルス治療で治った方でも、一生、低い値で陽性を示すため、現在の感染かどうかを判断するにはHCV-RNAの有無を確認する必要があります」としながらも、できるだけ効率良く、かつ限りなく感染者の漏れを少なくするため、HCV抗体陽性例の抗体価と血中のHCV-RNAの関連を調査。HCV抗体陽性例のうち抗体価が7.0以上のケースでHCV-RNAを測定することとした。

あわせて患者さんにHCV-RNAの受検を促す文書の作成、病院全体で取り組むため院内に周知するとともに、中心的な役割を果たす肝炎コーディネーターを配置した。徳洲会インフォメーションシステム(TIS)とも連携し、BI(病院運営管理)ツールや病院の電子カルテから関連するデータや対象患者さんを抽出しやすくした。

こうした体制により、19年3月から21年10月までにHCV-RNA測定を43例に実施、そのうち高い値を15例(35%)が示した。5例は自院で治療し、10例は他院に紹介などした。

小児や早期肝がん発見も

HCV抗体検査を行う内海・臨床検査技師

湘南藤沢病院が開始した4カ月後にグループ病院で同プロジェクトを実施。2回にわたる「肝炎コーディネーター研修会」などを通じ、グループ病院は湘南藤沢病院の取り組みを参考にしながら活動している。

福岡徳洲会病院は医師、臨床検査技師、システムエンジニア(SE)、看護師、医師事務作業補助職員、医事課職員をコアメンバーとするHCVサーベイランスチームを設置するとともに、肝炎コーディネーターを配置。検査室がHCV抗体陽性者をリスト化し、医師がリストから患者さんをピックアップ、肝炎コーディネーターが文書の郵送や検査の日程調整などフォローする。

「福岡県は肝炎対策に以前から力を入れており、当院は二次医療圏に1カ所設けられている肝疾患専門医療機関です。県が行う肝炎コーディネーターの養成研修もすでに13人受講していたため、スムーズに進めることができました」と中島彩看護師。HCV-RNA検査まで行った約1割が治療を必要としたという。「なかには子どもの感染症例や、早期の肝臓がんの発見につながったケースもあり、とても患者さんに感謝されました」(中島看護師)。院内の健診センターとも連携し、外国人の感染者、B型肝炎の症例も見つけたこともあるという。

羽生総合病院(埼玉県)は20年3月から月1回の活動を開始。マニュアルと業務フローを作成し、多職種が協力して行っている。年間で5~10人程度の治療につなげている。「対面による患者さんへの対応を加えて、受診につなげたいと思います」と川田亮・副薬局長は意気込む。

日高徳洲会病院(北海道)はマンパワーが限られていることもあり、医師、臨床検査技師、医事課職員が協力し対応。医師は患者さんにHCV-RNA検査の必要性や結果を説明するが、関連の専門医が不在のため、必要に応じ専門病院に紹介している。内海秀崇・臨床検査技師は「データやマニュアルの作成、外来診察室にHCVに関する資料の設置なども行っています。ひとりでも多くの患者さんを助けたい」と積極的だ。

野崎徳洲会病院(大阪府)は20年に、医師、臨床検査技師、看護師、薬剤師、理学療法士、栄養士、事務職員を中心とするチームを結成。これまで45例に介入し、25例が治療につながった。谷澤由香・看護師長は「職員の理解を深め、チーム活動をさらに円滑にするとともに、かかわる件数の増加、治療開始までの期間短縮を目指したいです」と意欲的。

プロジェクトの現状について岩渕センター長は、「コロナ禍のなかで、各施設が工夫を施しながら地道に活動していると思います」と評価。「サーベイ開始から3年間、毎年、陽性者が検出され、一定数が治療を受けています。すぐには減らず、サーベイを持続する意義はあるでしょう。TISのおかげでシステムも大変進化しているため、多角的に検証していきたい」とアピールしている。

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