第19回日本臨床腫瘍学会学術集会 リアルワールドデータ研究発表 徳洲会グループ
第19回日本臨床腫瘍学会学術集会
リアルワールドデータ研究発表
徳洲会グループ
膵・胃・肺がん治療の解析結果も
プロジェクトの全体像など3演題を発表した下山副院長 肺がん領域の解析結果を発表した瓜生副院長神戸大学大学院医学研究科腫瘍・血液内科学の南博信教授 「臨床医に役立つエビデンスの発信に期待」と今村助教
「日本のがん患者における全身化学療法の実際の結果:徳洲会リアルワールドデータ・プロジェクト」と題し、ミニオーラルのセッションでプロジェクトの全体像について口演(口頭発表)したのは、湘南鎌倉総合病院(神奈川県)の下山ライ副院長兼オンコロジーセンター長。
下山副院長はプロジェクトの目的として「徳洲会グループのスケールメリットを生かし、日本人の全身化学療法の治療結果を明らかにすること」と説明した。
具体的には2010年4月から20年3月までに、徳洲会の抗がん剤プロトコルシステムを導入し、標準レジメンを使用している47病院で化学療法を行った患者さんのうち、活動性の重複がんなど除外基準に該当しないすべての患者さんを対象に、診療データを匿名化したうえで、全生存期間を主要評価項目として解析を行う。現在、プロジェクトでは食道がんや胆道がん、乳がんなど計15のがん種に関して解析を計画している。
今学会で、下山副院長は研究の手順や方法を説明し、まず肺がん、胃がん、膵がんに関して実際に解析を行った結果を演題として発表すると報告した。
肺がんに関しては、八尾徳洲会総合病院(大阪府)の瓜生恭章・副院長兼腫瘍内科部長が「EGFR変異陽性非小細胞肺がんの生存率の改善:徳洲会リアルワールドデータ・プロジェクト(TREAD01)」と題してポスター発表。EGFR-TKI(上皮成長因子受容体チロシンキナーゼ阻害薬)による治療を行った1130人のEGFR変異陽性非小細胞肺がん患者さんのうち、除外基準に該当しなかった758人について、患者背景や治療内容、生存率などに言及したうえで解析結果を提示。
「従来の臨床試験で観察されてきたEGFR-TKIによる延命効果を確認し、とくにオシメルチニブによる強力な生存期間の改善が示されました」と結んだ。
胃がんに関しては下山副院長が「ニボルマブによる治療を受けた胃がん患者の炎症スコア:徳洲会リアルワールドデータ・プロジェクト02(TREAD02)」というテーマでポスター発表。適格患者159人について同様の解析を行い、「ニボルマブで治療を行った患者さんのmGPS(修正グラスゴー予測スコア=炎症と栄養状態の指標)が予後予測に有効であることが明らかになりました」とまとめた。
膵がんに関しては、ミニオーラルのセッションで「日本における転移性膵がんの実際の治療成績:徳洲会リアルワールドデータ・プロジェクト03(TREAD03)」と題して下山副院長が発表。適格患者846人を対象とした解析結果を示し、「転移性膵がんに対する確立された治療法であるゲムシタビン+nabパクリタキセル、FOLFIRINOXによる延命効果を確認し、転移性膵がん患者さんの生存率の改善が示されました」と報告した。
今学会では和泉市立総合医療センター(大阪府)の佃博副院長や大田隆代・腫瘍内科部長、仙台徳洲会病院の神賀貴大・外科部長がポスター発表を行うなど、徳洲会は計8演題を発表した。
「徳洲会なら日本のがん患者の実態をほぼ反映」
「徳洲会の抗がん剤プロトコルシステムがスタートしてから2020年で10年が経ちました。この10年間の徳洲会のがん薬物療法を総括する意味でも、蓄積された診療データを活用し、社会に還元していくことが重要です。がん以外の併存疾患のある患者さんも多く含まれた実臨床のデータであるため、厳格な適格基準で行われた従来の臨床試験データを補完できると考えます。今回の研究対象期間後に抗がん剤プロトコルシステムを導入した病院が増え、現在は51病院にまで拡大しました」と下山副院長。
瓜生副院長は徳洲会のスケールメリットを生かしたリアルワールドデータの意義を強調。「さまざまな切り口で研究を行うことができる“宝の山”です。データの解析を通じ新しい知見を提示したい。診療の質向上につなげることが目標です」と意欲的だ。
プロジェクトのカウンターパート(研究協力者)である神戸大学大学院医学研究科腫瘍・血液内科学の今村善宣助教は「多数の市中病院を抱え全国規模の組織力がある徳洲会グループであれば、日本のがん患者の実態をほぼ反映した患者層を対象とした研究が可能です。臨床医に役立つエビデンス(科学的根拠)の発信に期待しています」とコメントを寄せている。
プロジェクトの遂行を可能にしたのは、徳洲会の各病院が共通の電子カルテシステムを導入し、統一された標準レジメンを使用できる抗がん剤プロトコルシステムを導入しているからだ。
標準レジメンの作成を開始したのは09年。現在、標準レジメンの数は400を超える。作成は医師の監修の下、薬剤師が担い、新薬の発売や既存薬の適応拡大などに合わせ、タイムリーに作成・改訂を行っている。
コアメンバーを務めてきた湘南鎌倉病院の中村雅敏・薬剤部長は「徳洲会薬剤部会に委員会を設けチーム制でレジメンの作成や管理を行っています。質を担保しながら継続していきたい」と抱負を語る。同院の門谷靖裕・副薬剤部長は「がんの専門医が少ない離島・へき地病院に、標準レジメンによって標準治療を普及させた意義は大きい」。
東京西徳洲会病院の岩井大薬局長は「新しい制吐剤など支持療法が出たタイミングでもレジメンを見直し、タイムリーな更新を心がけてきました」。吹田徳洲会病院(大阪府)の高木明子・副薬剤部長は「適正使用ガイドがない抗がん剤などもあったため、文献を探し根拠を確認しながら作成したこともあります」と振り返る。
また、プロジェクトでデータ抽出など担った徳洲会インフォメーションシステムの藤村義明・開発部長は「がん登録はグループ全体で年間約2万件に上ります。患者さんのためビッグデータを活用するのは徳洲会の大切な役目です」とアピールしている。
リアルワールドデータとは…
実臨床の現場で診療行為を通じ得られた医療ビッグデータを指す。電子カルテやレセプト(診療報酬明細書)、DPC(診断群分類別包括評価)などの情報を匿名化したうえで解析することによって、より良い治療方法の選択に役立つことなどが期待されている。