本人・遺族の思いを汲む 国内初「献眼シミュレーション」 神戸病院が実施
本人・遺族の思いを汲む 国内初「献眼シミュレーション」
神戸病院が実施
臓器ごとの医学的適応を説明する竹田副院長 家族役の職員が同意書にサインする際、摘出直前まで辞退可能と説明を受ける 義眼は火葬で燃える素材でつくられている
献眼シミュレーションは3月10日、担がん状態(体内にがんがある状態)の90歳男性が意識レベル低下により、神戸病院に救急搬送されてきたという想定でスタート。余命わずかの見とおしで、意識も戻らず、延命治療の希望は本人からも家族からもない。以前から「亡くなったら使える臓器は提供したい」と本人が話しており、臓器提供したいという旨を記した意思表示カードも携帯、家族も同じ思いであることから、具体的な臓器提供の適応の判断に移った。
臓器提供にはいくつかの条件がある。本人の拒否、被虐待児、司法解剖の実施など社会的不適応はもちろん、各臓器によってドナー(臓器提供者)側の年齢制限があり、全身性感染症やHIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染症、提供する臓器の部位によっては腫瘍や中枢神経疾患の有無など医学的不適応も事前に精査する必要がある。
眼球や角膜の提供には年齢制限がなく、腫瘍が眼球転移していたり、レーシック手術や白内障の治療歴があったりしても提供可能で、そのぶん提供数も多い。一方、本人に臓器提供の意思があっても「白内障の手術をしているので献眼は無理」などと、適応条件をよく知らないがゆえに家族が最初から諦めてしまうケースもある。
「医療者が正しい知識をもち、どのような条件が不適応となり、どの場合なら適応か理解し説明できないと、患者さんやご家族の思いをくみ取れません」と、同院で移植コーディネーターを務める竹田洋樹副院長は院内教育の大切さを強調する。コロナ禍のため大規模研修などは実施できないが、今回、院内外の関係者の顔合わせも兼ね、最小限の人数でシミュレーションを実施した。
意思確認の体制必要
アイバンクコーディネーターからは家族役の職員に対し、具体的にどこを摘出するのか、摘出後の遺体はどうなるのかなど詳しく説明。眼球は全摘出するものの、摘出後には詰め物や義眼をはめ込むことで、見た目がほぼ変わらないよう修復することを伝えると、職員らは真剣な表情でうなずいていた。
同意のサインを一度出しても実際に摘出するまでは、いつでも辞退可能なこと、心停止後12時間以内であれば摘出可能なため、仕事に出ている子どもから「摘出時には、そばにいたい」などの要望があれば叶えられることなども丁寧に説明した。
また、「提供の意思が明確な場合は、可能なら事前に6~7㏄程度の血清をいただけると助かります」(渡邉和誉・公益財団法人兵庫アイバンク事務局長兼コーディネーター)など、具体的にいつ、どこで、何をすればスムーズに摘出できるか手順を協議。竹田副院長が事前に用意していた臓器提供マニュアルのたたき台は、関係者らの話し合いの下、この日に何度も改変し、より現実に即したものとなった。
遺体へのメイクなどエンゼルケアは、首から下は前もって実施可能で、ひげも事前にそることができるが、顔のメイクは摘出後に、と細かな事項も確認し合った。
お見送り後しばらくして家族から「じつは本人に臓器提供の意思があった」などと伝えられたこともあると、看護師から体験談が聞かれると、竹田副院長は「摘出には時間的リミットがあります。亡くなられた方の思いを無駄にしないためにも、事前に意思確認できる体制が必要」と訴えた。
渡邉・事務局長も「臓器提供は強制ではない」と強調したうえで、「臓器提供したくない、興味ない方が、いざという時に話を振られずにすむようにするためにも、臓器提供の意思表示カードに意思を記入しておく文化を醸成したい」と、思いを吐露した。同院では将来的に、全入院患者さんに臓器提供の説明を希望するか意思確認する体制を敷く考えだ。
竹田副院長は以前、看護部長から医療者の知識不足から臓器提供の希望があったにもかかわらず動けなかった事例があったことを聞き、同院への赴任と同時に院内の臓器提供体制の構築に乗り出した。「今回のシミュレーションはマニュアルなどの改変箇所のあぶり出しが目的。関係者同士の顔合わせもでき、目的は達成できたと思います」と竹田副院長は振り返っていた。