野崎徳洲会病院・乳腺外科 根治性と整容性の追求に力 内視鏡補助下乳房温存手術を積極導入
野崎徳洲会病院・乳腺外科
根治性と整容性の追求に力
内視鏡補助下乳房温存手術を積極導入
「ほんの少し勇気をもって乳がん精密検診を」と中嶋部長
中嶋部長は「当院が位置する北河内地域には、豊富な経験と実績をもつ乳腺専門医や乳腺指導医が少ないので、当科への期待は大きいと思います。地域の方々に最新・良質な医療を提供していきたいです」と意気込む。
乳がんの多くは浸潤がんであるため、適切な初期治療をしても数年が経過すると全身のあらゆる臓器に転移・再発する可能性がある。患者さんに最適な治療を提供するために、野崎病院乳腺外科は欧米の「がん治療の考え方」を参考に、MUBC(Medical Union Ove-rcoming Breast Cancer)という新しい診療組織形態での診断・手術・術後治療を目指している。
MU(メディカルユニオン)は医師やスタッフ一人ひとりが、その分野のプロとして並列・迅速に機能し、良質で安全な医療を提供する。中嶋部長は「徳洲会グループには71病院あり、優秀な乳腺外科医師や消化器外科医師も多く在籍しています。近い将来、グループ全体で病院の枠にとらわれないMUが形成できたら、がんで苦しむ患者さんに大きな恩恵になると思います」と展望する。
乳がん治療の到達目標は、相反する概念でもある「病理学的根治性」と「整容性の長期維持」の両立。従来の乳がん手術(直達手術)では、がんの存在する部位の直上皮膚を切開し、直接肉眼でがんを確かめて摘出するが、この術式では乳房皮膚表面に大きな傷が残る。そこで近年、根治性と整容性の両立を目的に、乳房温存手術や切除手術に、多様な形成外科的手技を導入する「オンコプラスティックサージャリー」という概念が誕生した。
内視鏡補助下乳房温存手術の様子
これに用いる乳房再建用ブレスト・インプラント(シリコン製人工乳房)とエキスパンダー(組織拡張器)は、13年7月に保険適用となった。エキスパンダーは乳房組織全体を拡張するためのもので、一定期間、乳房皮下や大胸筋下に埋め込むことで、その後のインプラント挿入が容易になる。
また、再建術を行う時期によって、乳がん切除術と同時に行う手技を「一次再建」、切除術後期間を置いて行う手技を「二次再建」と言い、エキスパンダーで皮膚を伸ばさずに1回で乳房を再建する方法を「一期再建」、あらかじめエキスパンダーを挿入し、時間を置いて2回目に人工乳房に入れ替える方法を「二期再建」と言う。
オンコプラスティックサージャリーについて中嶋部長は、「日本人の成人女性の60%以上は、欧米女性と違い皮下脂肪が少なく乳腺量が多い高濃度乳腺であるため、手術で乳腺を全摘して人工物を入れると、ふくらみはできても、左右対称の形を安定して形成するのは難しい。また、人工乳房の外圧が長期的に乳房皮膚を内から圧迫するため、長期のバランスが保てず、年数経つと左右差が出る症例が多い」と指摘する。
独自開発した装置活用 傷が目立たず回復早い
そこで中嶋部長は、乳がん治療にVA-BCSを積極導入。これは中腋窩線や乳輪縁の小切開から「HIROTECH」のアームを挿入し、内視鏡とLEDライトによる補助下で行う手術だ。ふだんは見えない場所、あるいは切開創が目立たない場所を切開する。小さな傷ですみ、出血量も少なく、回復が早いのも特徴。また、3㎝を超える大きな乳がんの場合には、術前化学療法や術前ホルモン療法で腫瘤を十分に小さくしてからVA-BCSを行う。
中嶋部長は、「若い方の乳がんが増えており、『可能なら自分の乳房や乳首を失いたくない、人工物を入れて後悔したくない』と、整容性の高い温存手術を希望される患者さんの期待に応えたい。長期予後に関しては、直達手術と比較しても同等であることを証明する多くの論文を欧米の一流誌に発表しています。もちろん日本語論文も同様です」と強調する。
整容性に関しては、切除後の残存乳腺と乳房の皮下脂肪の厚みに応じて独自の術式を考案。これまでの実績では、手術直後はもとより、その後何年間も左右対称の整容性を維持している。また、乳房の切除領域が大きく、残存乳腺だけでは整容性を確保できない場合も、人工物ではなく自家組織を用いた再建術を20年以上前から実施。中嶋部長が考案した広背筋脂肪弁同時充塡再建術は、中腋窩線の1本の手術創から「乳がん摘出と広背筋脂肪弁の同時充塡再建術」が可能であるため、背中や臀部には傷が付かない。
同院は昨年12月、日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会の乳房再建エキスパンダー(一次再建)/インプラント(一次一期再建)実施施設を取得した。インプラントを希望する患者さんには、その利点と問題点を提示した後に、形成外科専門医と共同で実施するなど、多様な選択肢を提供している。
今後の展望について中嶋部長は、先に提案したMUのコンセプトをもとに、「徳洲会グループ病院で乳がん治療を実施している多施設と協力し、お互いのデータを共有・活用して、遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)の治療戦略の基盤となる研究を行えたらと考えています。簡単ではありませんが、AI(人工知能)の運用を安全に上手に行えば、夢物語ではありません」と意欲的だ。
また、地域の方々には「乳がんは手術をすれば完治すると考えている方も多いと思いますが、大きさだけでなく、悪性度が高いと、全身に転移する可能性が高くなる怖い病気です。早期発見が重要となりますので、ほんの少しの勇気をもって、乳がん精密検診を受けていただきたいです」と呼びかけている。