徳洲会 5病院がJCI認証を更新 コロナ禍によりオンライン受審
徳洲会 5病院がJCI認証を更新
コロナ禍によりオンライン受審
世界で最も厳しい評価基準
JCI認証の審査は通常、多様な国籍のサーベイヤー(調査員)が病院を訪れ行われるが、コロナ禍のためオンラインで実施。どの病院もカメラを搭載した端末で院内各所を映しながら、病院職員にヒアリングするかたちで進めた。
“質と量”の両立に寄与 ──湘南鎌倉病院
篠崎院長(前列中央)、権藤副院長(前列左)、オンラインサーベイで随行員を務めたスタッフら(湘南鎌倉病院)
2012年10月に徳洲会グループで初めてJCI認証を取得した湘南鎌倉病院は、昨年11月に3回目となる更新審査を受け合格した。審査は11月8日から5日間、オンライン形式で実施。3人で構成するサーベイヤーは海外からリモート(遠隔)で参加した。カートに載せたWEBカメラ付きの端末をサーベイヤーごとに用意し、随行員を務めた同院職員がサーベイヤーの要望に沿ってカートを移動させ、病院幹部や職員へのインタビュー、各部署のラウンドや各種記録の確認などを行った。
同院は昨年6月、グループ内のJCI認証取得病院の協力を得てモックサーベイ(模擬審査)を実施。その時の指摘事項の改善や、審査基準のバージョンアップへの対応を進めてきた。これと並行し、各部門の部門長が3チームに分かれ、医療安全や感染対策、施設安全など、さまざまな観点から現場の確認を行う“SKOラウンド”や、院長などが各現場を回る“四役ラウンド”などを実施。モックサーベイ後は、ふだんよりもラウンドの頻度を増やし審査に備えた。
初回審査の準備段階からJCI認証取得プロジェクトを推進してきた権藤学司・副院長兼脊椎脊髄センター長は「医療安全や医療の質が底上げされ、“質と量”の両立につながっているのを感じます。コロナ禍の当初から標準予防策など感染対策を実践してこられたのも、JCI基準が定着していたおかげです」と評価。
篠崎伸明院長は「審査の有無にかかわらず、病院を挙げて日頃から質の高い、安全な医療の提供に努めていきたい」と抱負を語っている。
病院の質担保には不可欠 ──札幌東病院
(右から)三澤部長、太田院長、JCI事務局の大西将司副主任(札幌東病院)スマートフォンのカメラも活用しオンライン審査を進める(札幌東病院)
札幌東病院は11月15日から5日間、審査を受審。太田智之院長は「更新審査は2回目でしたので、身構えることなく、いつもの力を出せば合格するという意識で臨みました」と振り返る。
同院はコロナ対応のため、徳洲会グループ内で実施したモックサーベイを受けることはできなかったが、JCI認証を受けた各グループ病院の事務局が定期的にオンライン会議を開き、ノウハウを共有。直近で受審した八尾徳洲会総合病院(大阪府)や葉山ハートセンター(神奈川県)のJCI担当者には直接連絡し、とくにオンライン審査に必要な環境整備などを参考にした。
審査のよりスムーズな進行のために、初日が終わってすぐに通訳者用にヘッドセットマイクを購入するなど、臨機応変に対応した。
プロジェクトリーダーを務めた三澤学・整形外科外傷センター麻酔部門部長は、湘南鎌倉病院の更新審査を見学したうえで臨んだ。審査を終え、「今回の審査から第7版になりましたが、求められる医療安全に対する本質は変わらないと思いました。JCI認証の更新審査を3年に一度のお祭りにせず、業務に結び付けることが大切です。今後も院内全体にJCIのスタンスを根付かせるために、勉強会など通じ啓発していきます」と決意を新たにする。
太田院長は「利害関係のない第三者からの評価を受け、それを改善していく工程は、病院の質を担保するうえで必要なことです。現在、徳洲会グループでは11病院がJCI認証を受けていますが、グループ全体の底上げにも寄与していると思います」と強調する。
院内に根付くJCI文化 ──南部病院
服部院長(前列右から4人目)を中心にJCI審査に対応(南部病院)
南部病院は11月29日から5日間、2回目の更新審査を受審。準備段階では、徳洲会グループ内で実施したモックサーベイを受けられなかったが、中部徳洲会病院(沖縄県)のJCI担当者に書類のチェックなど協力を得た。また、審査中に通信が途切れないように、前もって電波が弱い場所がないか何度もシミュレーションし、院内4カ所にWi─Fiブースターを設置。電子カルテの画面をZoomに映し出す方法も工夫した。
服部真己院長は「昨年4月に院長に就任し、初めての大役を務めました」と述懐。「更新審査の準備を進めるなかで、取り組みやデータを可視化することの重要性を学びました。また、コロナ対応で感染対策を進めていると、JCI認証の項目につながることがあります。JCI認証を受けることが、医療安全につながっているのだと、あらためて実感しました」と強調する。
審査初日、手術室をラウンドしている際、サーベイヤーが気付く前に同院スタッフがミスを自己申告したところ、「透明性があり、JCIの文化が院内に根付いていることが良くわかる」と高評価。また、一度も通信が途切れなかったことも、良い印象につながった。
服部院長は「サーベイヤーは時差により、審査が夜中になったにもかかわらず、笑顔で対応してくださり、終了後はお祝いのメールもいただきました。高評価をいただいたサーベイヤーの期待を裏切らないためにも、3年後の更新審査に向けて、今から職員が一丸となって医療の質を向上させていきたいと考えています」と固く誓う。
審査結果が前回より改善 ──福岡病院
ドクターカーの中もチェック(福岡病院) 文書などはカメラに映して説明(福岡病院)
福岡病院は12月6日から5日間、審査を受けた。最初に乘富智明院長ら病院幹部がサーベイヤーに病院全体について説明し、コロナ禍を含む品質管理や倫理に関する枠組みを提示。
医療安全について、グループで定めている行動規範や年1回実施している職員の満足度調査に触れたり、各部署から病院幹部が報告を受ける頻度などを示したりした。
その後、最終日まで院内の各所をチェック。
カートで端末を動かしながら、部署ごとに所属スタッフがサーベイヤーからの質問に答えた。サーベイヤーから主に環境、患者さん対応、質に関するデータが問われ、具体的には、コロナ疑いの患者さんの見分け方、ICU(集中治療室)の環境(陰圧レベルなど)、救急車を用いた搬送の件数、医薬品の保管(麻薬や劇薬の施錠管理、廃棄方法など)などを説明した。ER(救急外来)では、どの救急カートでも医薬品の場所、種類、数量が同一かどうか尋ねられたり、カルテをもとに症例を説明したりした。入院率や再受診率などを答える場面も見られた。
審査の結果、Not met(不適合)の項目はゼロ。Partially met(部分適合)は15項目、ほかはすべてMet(適合)で、初のJCI認証更新。今回、中心的な役割を担った鬼木秀徳QIセンター係長は「たえず改善活動に取り組んでいますが、自分たちだけでは限界があります。JCIは、あらゆる部署が関連してくるので、職員が一丸となり結果が出せたと思います」と笑顔。「Partially metが前回の半分以下となり、着実に進化している手応えを感じています」。
“外部の目” 必要性実感 ──岸和田病院
固唾を飲んでサーベイヤーの総評を聞き入る職員(岸和田病院)
2018年に認証を取得し、初めて更新に臨んだ。受審期間は12月13日から5日間。同院もカメラを備えた端末をカートに載せ、移動させながら院内の各部署について説明した。審査の結果、Not metは1、Partially metは26、それ以外はすべてMetだった。後日、改善計画を提出し合格した。
最終日には講堂に管理職を中心に多くの職員が参集。サーベイヤーから「非常に充実した期間でした。コロナ禍で準備も大変だったことでしょう。IT(情報技術)チーム、また外部の通訳の方を含め、皆様に感謝します。今回の受審で学んだことがあれば、うれしく思います」と言葉を寄せられ、「満場一致でJCI本部に(合格の)推薦をさせていただきます」と3人のサーベイヤーがサムズアップすると、同院の職員は一様にほっとした表情を浮かべた。
更新にあたり陣頭指揮を執った出田淳副院長は、「素晴らしいサーベイヤーを迎えられて幸せでした」と謝意を表し、「3年前に認証を取得した時から、審査を通じ当院の医療の質と安全が高まっていることを実感しています。この経験を生かし、患者さん中心の医療をさらに推進していきたいです」と意欲を見せた。
サーベイヤーとの通信が終わると、列席者から自然に拍手が起こり、なかには「終わったー!!」と歓喜の声を挙げるスタッフもいた。最後に深野明美・看護部長が「それぞれ部署に戻ったら各スタッフにも労いの言葉をかけてください」と呼びかけ終了した。列席者のひとりは「めちゃくちゃ大変ですけど、皆で“決めたことをやろう”と目標を掲げ取り組めたことが良かったです」と吐露。
同認証取得に携わった椋本実樹男・国際医療支援室主任も「毎回大変ですが、自分たちだけでは気付かない面もあり、外部から指摘してもらうことの大切さを実感します」と意義を強調。
JCI認証とは
世界中のベストプラクティス(最良の実践)に基づく国際的な医療機能に関する第三者評価。1994年に設立され米国を本拠地とする非営利組織「Joint Commission International」が実施しており、一定の基準をクリアすれば認証が取得できる。
審査はJCIに所属する多様な国籍のサーベイヤーが行う。サーベイヤーは毎回ランダムで選出され、実際に審査対象施設を訪れ、医療の質と患者安全を中心に評価する。審査項目は13カテゴリー、約1,200項目に上るなどハードルは高い。結果は項目ごとにNot met(不適合)、Partially met(部分適合)、Met(適合)と示され、必要に応じ改善計画を提出する。
認証期間は3年間で、3年ごとに更新審査をクリアしなければならない。世界で1,000以上の施設が認証を取得しているが、日本では現在30施設しかない。
徳洲会グループは医療の質向上と患者安全を図るため基幹病院を中心に取得を推進。2012年の湘南鎌倉総合病院(神奈川県)を皮切りに、現在11病院が認証を取得している。受審にあたり、当初はJCIのコンサルタントを招聘してモックサーベイを行っていたが、最近は職員のみで実施するなど、経験値を生かしている。