救急・急性期機能やがん医療など大幅強化 仙台徳洲会病院が4月1日に新築移転オープン 安心・安全な療養環境を提供
救急・急性期機能やがん医療など大幅強化
仙台徳洲会病院が4月1日に新築移転オープン
安心・安全な療養環境を提供
現病院の約2.3倍の延床面積をもつ新病院
ドクターヘリや防災ヘリを受け入れるヘリポート
吹き抜けの開放感があるエントランスホール
仙台病院の新病院は商業施設や小学校、住宅街のあるにぎやかなエリアを貫く幹線道路沿いに立地する。現病院と比べ敷地面積は約2・8倍の3万55㎡、建築面積は約1・6倍の7545㎡、延床面積は約2・3倍の3万3739㎡に増加。地上9階建てで、8階には介護老人保健施設シルバーホームいずみが入る。
新病院のコンセプトは①救急・急性期医療や、がん医療の強化、②安心・安全な療養環境、③災害に強い病院だ。
救急に関して同院は年間約5000~6000台の搬送を受け入れるなど尽力。新病院では、一段と救急・急性期医療に力を入れるため、ハイブリッド手術室やハイブリッドER(救急外来)を整備した。ハイブリッド手術室は血管撮影装置を備えた手術室で、より高度な治療に対応可能。ハイブリッドERはER初療室の隣室にCT(コンピュータ断層撮影)装置を格納、必要に応じ扉を開け、一体的に運用することで診断と治療を並行して実施できる。1分1秒を争う救急医療にとって有用な設備だ。
救急搬送の入り口には、救急車が停車するための屋根付きのスペースを設けた。ボタンひとつで開閉できる高速シャッターで外部環境を遮蔽できる。風雨の強い時などはシャッターを降ろすことで、スムーズな初療開始が期待できる。さらに屋上にはドクターヘリや防災ヘリの離着陸が可能なヘリポートを備えている。
手術室は従来の5室から8室に増える。うち1室は清浄度がきわめて高いバイオクリーンルームで、人工関節置換術など整形外科手術に活用する計画。陰圧と陽圧を切り替えられる手術室もあり、感染症を併発する患者さんの手術に対応可能だ。
HCU(高度治療室)は6床でスタートし順次拡大する考え。将来的にはスーパーICU(集中治療室)への格上げも見据え、1床当たり20㎡を確保した。HCUを取り囲むように廊下を配置。患者さんと家族が対面したい時に、この廊下を通ることで他の患者さんのプライバシーを守りながら近づくことができ、仮に感染症を有する患者さんの場合でも家族とガラス越しに対面できる。
新病院では、外来化学療法室を従来の2床から10床に大幅増強。透析室は従来の15床から30床に倍増し、リハビリテーション室も従来の2倍の広さに拡張した。
徳洲会グループで初導入 スマートベッドシステム
吹き抜けの開放感があるエントランスホール
患者さんの安心・安全に寄与するスマートベッドシステム(写真は現病院でデモ機を用いテストを行う様子)
徳洲会グループで初の導入となるスマートベッドシステムは、ベッドサイドの専用端末に患者さんの情報を集約して表示できる。電子カルテと連携し、昼夜のADL(日常生活自立度)や安静度、食事、転倒リスクなどをピクトグラム(絵文字)で、わかりやすく示す。体温、血圧、血中酸素飽和度、血糖値のバイタルデータは通信機能付きの測定器を端末にかざすことで自動入力が可能だ。早期警告スコア(NEWS)を表示する機能も盛り込み、患者さんの急変をいち早く察知。スタッフステーションでも同じ情報が共有できる。
健診や人間ドックを行う健診センターは「予防医学センター」に改称。女性用の更衣室にはパウダールームを完備する。
2階に50人ほど収容が可能な会議室を設け、コロナ収束後には医療講演や糖尿病教室など対面式の催しを実施する計画だ。予防医学センターと老健シルバーホームいずみは、それぞれ専用の入り口があり、エレベーターも含め正面玄関を利用する他の患者さんと動線を分けている。
7階病棟は感染症に対応したつくり。陰圧個室2床を設けるとともに、陰圧レベルは下がるが病棟全体(40床)を陰圧環境にできるようにした。現病院では敷地内にプレハブ型のコロナ専用病棟(24床)を運用しているが、移転後は7階病棟でコロナ患者さんの入院を受け入れる方針だ。院内保育所「おひさま保育園」も敷地内の一角に移転した。
災害に強い病院を目指し、耐震構造を採用。自家発電装置と備蓄燃料により、病院機能は3日間持続可能だ。エントランスホールには床暖房があるため、避難時の低体温を防ぐことに役立つ。
佐野憲院長 地域の皆さんのために貢献
当院は徳洲会の“生命だけは平等だ”の理念に基づき、主に仙台市北部地域の住民の方々の生命と健康を守るため、診療の充実に努めてきました。新病院への移転にあたっては、患者さんに安全・安心な医療と環境を提供するための整備に力を入れました。当院の柱である救急・急性期医療に関しても随所で機能向上を図りました。たとえばハイブリッド手術室やハイブリッドERの開設、屋上ヘリポートの敷設、救急搬送入り口への高速シャッター設置などです。320列CTや高性能MRI(磁気共鳴画像診断)装置を新規導入し、診断能も拡充します。
また病棟の各階で、エレベーターを降りたとしても、専用のカードキーがなければ病棟内に入れないよう、院内のセキュリティを強化しました。患者さんと医療従事者を守っていくための措置です。これからも職員一同、力を合わせて、地域の皆さんのために貢献していきます。
佐藤裕恵・看護部長 マグネットホスピタル目指す
当院は、看護師ができるだけ患者さんのベッドサイドを離れずに業務を行う「セル看護方式」を採用しています。患者さんの変化にいち早く気付けるなどメリットのある看護方式ですが、夜間の手薄な時間帯は各病室へのスタッフの配置が難しいのが課題でした。新規導入のスマートベッドシステムは患者さんの睡眠や覚醒、体動から算出した呼吸数や心拍数をモニタリングできる“眠りスキャン”というセンサーと連携でき、スタッフステーションでの夜間の見守りにも活用できます。
こうしたICT(情報通信技術)導入を推進する一方で、人材育成にも力を入れています。コロナ禍で病院実習を経験していない新人看護師がいますので、各病棟に配属された新人看護師を対象に、病棟間のローテーション研修を行っています。これからも療養環境の改善を推進し、患者さんから選ばれ、看護師も集まるマグネットホスピタルを目指します。
片岡隆行事務長 9月に回復期リハ病棟開設
当院は315床あり、その内訳はHCU6床、一般病棟250床、障害者病棟35床という病棟編成です。県から増床が認められ、9月に32床の回復期リハビリテーション病棟を新たに開設する計画です。仙台市内の自治会や町内会から、医療・健康に関する出張講演を行ってほしいという、ご要望も増えています。新型コロナの感染状況にもよりますが、そのようなご要望にしっかりと応えていきたいと考えています。
なお、現病院の2階に事務所がある関連施設の富谷訪問看護ステーションは、新病院1階に入り、「訪問看護ステーションひなた」に名称変更して業務を開始します。地域の方々に信頼していただけるよう、これからも地域に根差した医療提供に努めていきます。
ハイブリッド手術室新設 緊急時対応にも活用
ハイブリッド手術室で使用する自走式のX線透視装置
低被曝線量下で高精細な画像取得が可能な320列CT
自動薬剤ピッキング装置「ドラッグステーション」
新病院は、新たにハイブリッド手術室を設ける。同手術室は、心臓や脳の血管撮影などに対応した高性能のX線透視装置を配備、カテーテルを使う内科的治療(血管内治療)と外科手術をひとつの部屋で行うことができる。透視装置は自走式のものを導入、体の各部位を撮影する際に、機器を移動させることで適切な角度で撮影可能だ。
加藤一郎・外科部長は「より安全に質の高い治療ができるように、ハイブリッド手術室を新設しました。緊急手術で必要なケースもありますので、地域の方々により貢献できると考えます。今後は、大動脈瘤ステントグラフト(網目状の金属が付いた人工血管)内挿術が始められるように、施設基準を整備していく予定です」と目標を話す。
医療機器では、最新型の320列CT(コンピュータ断層撮影)装置を導入。同機器はAI(人工知能)のディープラーニングを応用した画像再構成技術を搭載、また脳や心臓など臓器全体を1回転で撮影でき、低被曝線量下で短時間のうちに高精細な画像取得が可能となる。骨密度を測定する骨塩定量検査機器も新しい機器を導入。これまでは前腕のみで測定する機器を使用していたが、腰椎と大腿骨(股関節)の2部位で測定可能となり、より精密な結果が得られる。
1・5テスラのMRI(磁気共鳴画像診断)装置も新規導入し、従来装置と合わせ2台体制となる。カテーテル室で使用するX線透視装置も新しく2台導入し、3台体制を実現。緊急時にもスムーズに対応しやすくなり、患者さんの検査待ち時間短縮に寄与する。
新しい医療機器を使いこなすには、スタッフのスキルアップも必要だ。古俣恵美・放射線科副技師長(診療放射線技師)は「導入する機器ごとにメイン担当者を決めて研修していますが、最終的にはスタッフ全員が共有し、高いレベルで機器を活用できるようにしていきます。今後、地域の医療機関から撮影のための紹介があると思いますが、きれいな画像を提供し、期待に応えられるようにしたいです」と意気込みを話す。
薬局には新システムとして、自動薬剤ピッキング装置「ドラッグステーション」をグループで初導入。同装置は常時800~1000の薬品を保持し、処方データに応じ払い出す薬品を自動でピッキングできる。薬剤師が薬品棚の前を動き回ることなく、短時間で正確なピッキングが可能となり、患者さんの待ち時間短縮にもつながる。
尾形勉薬局長は「煩雑な業務を自動化できるぶん、薬剤師は病棟業務が増える予定です。現在の6病棟から新病院では8病棟になりますし、新しく開始予定の化学療法室に加え、手術室やER、HCUへの薬剤師常駐も考えています。薬物療法の提供だけでなく、より医療安全にかかわるようになりますので、薬剤師のスキルアップが欠かせません」と意を固くする。