読み解く・読み得 紙上医療講演50 小児の起立性調節障害
読み解く・読み得 紙上医療講演50
小児の起立性調節障害
神戸徳洲会病院泉井雅史・小児科部長
遅くまで起きていて、朝は体がつらくて起きられず、午後になると元気になり、夜はまたスマートフォンを見たりゲームで遊んだり……。傍から見ると怠けているようにしか見えませんが、これはODの患者さんによく見られる光景です。
中高生の10人に1人が同疾患を発症し、そのうち3割は不登校になっていると言われています。実際、小児科の日常臨床の場で頻繁に遭遇します。また、コロナ流行前と比較し、患者さんが急増。これはコロナ禍の外出抑制によるストレスで、自律神経が乱れたことが原因だと考えられます。もはや社会問題と言っても過言ではありません。
一方、患者さん本人は、動きたくても体がつらくて動けず、原因がわからないまま不安な思いをするケースが多くあります。また、ODの厄介なところは、最も発症しやすい時期が思春期だということ。保護者の立場からすると、子どもが中学生で不登校になり、「このまま高校にも進学せず、引きこもってニートになるのでは……」と悩むケースもあるようです。ODの診断は表を参照してください。
ODの病型の典型は体位性頻脈症候群(POTS)。これは立位時や起床時に下肢や腸管の血管が収縮不足になり、頭部や上半身への血液量が不足し、それを代償するために心拍数が上昇する病態です。症状は多種多様で、午前中を中心とした倦怠感や動悸、腹痛、頭痛などが日常的に存在し、長期間続くことが特徴。
一般的な治療法は、飲水療法やミドドリン内服などがガイドラインで推奨されています。しかし、効果が出ないことも多く、実際の臨床の場では、症状増悪時になす術もなく帰宅し、患者さんやそのご家族、主治医に多大な我慢を強いているのが現状です。
近年、米国の論文でPOTSに対する新しい治療法が提示されました。論文によると、症状増悪時に生理食塩水500㎖~1.5Lを30分~2時間以上かけ静注することにより、効果が即座に発現、さらに数日間持続すると報告されています。
実際、当院のPOTS患者さんに対し同治療を実施したところ、劇的な効果を認めました。治療の翌日には症状が改善、さらに3~4日は元気に過ごすことができるようになり、登校も可能になったケースを数例経験しました。使用するのは生理食塩水なので、治療の副作用もありません。
根治するには成長を待つしかなく、患者さん本人の努力でどうすることもできない病気なので、一時的でも症状を改善するための治療が重要になります。しかし、日本ではまだ同治療がほとんど行われていないのが現状です。注意事項や方法に関する質問などがございましたら、気軽に当院までご連絡ください。