南部病院 尿失禁を再生医療で改善 記者会見開き治療実証の成果報告
南部病院
尿失禁を再生医療で改善
記者会見開き治療実証の成果報告
記者会見に臨む服部院長(左から2人目)や向山・主任部長(左)ら内視鏡を用いながら注射器で幹細胞を移植
再生医療とは、病気やけがで損なわれた臓器や組織の働きを取り戻すため、細胞を体外で培養したり加工したりし、移植する医療。幹細胞は同じ細胞を複製する「自己複製能」に加え、さまざまな種類の細胞に分化する「多分化能」をもつ。今回、使用した脂肪幹細胞は脂肪組織だけでなく骨や軟骨、心筋細胞、血管をつくる細胞などに分化する能力をもち、さまざまな組織の再生医療に応用できると言われている。
尿失禁に対する脂肪幹細胞を用いた再生医療の適用は、これまで大学病院での実証例はあるが、民間病院では南部病院が初めて。沖縄県でも初となる。同院は臨床経験を重ね、新たな治療法として確立させる考えだ。
同事業は、幹細胞および装置培養細胞を用いた再生医療の治療実証を行う事業計画であり、同院では尿失禁の治療、そばじまクリニックでは、複数回投与による変形性関節症の治療を予定(事業期間は4年)。記者会見には同院の服部真己院長や向山秀樹・泌尿器科主任部長らが出席し、同院で実施した治療実証の成果を報告した。
冒頭、服部院長が「再生医療は医療の世界において最も先進的な分野であり、急速に進歩・発展を続け、世界中で日々新たな成果が取り上げられています。当院でもさらに経験を重ね、病気で困っている患者さんに貢献していきたいと思います」と挨拶。
続いて、向山・主任部長が再生医療の概要を説明。正常な場合、膀胱(ぼうこう)に尿がたまっても、尿道括約筋が収縮すれば漏れることはない。一方、前立腺がんなどの治療で前立腺を全摘出した場合、膀胱と尿道括約筋を結ぶことになるが、合併症として尿道括約筋の収縮力が弱くなり、尿失禁が生じることがある。
一般的には薬物治療を行うが、効果が得られなかった場合、再生医療の対象となる。まず注射器を使い、患者さんから幹細胞を含む皮下脂肪を採取し、そこから幹細胞を生成。続いて内視鏡を用いながら、尿道括約筋付近に注射器で幹細胞を移植し、弱った筋力を回復させる。
1例目は昨年12月12日に実施。有害事象として一過性の皮下血種があったが、すぐに軽快する。移植前値に対する移植後の24時間パッドテストによる尿の漏出量変化では、術前は1日に11gあった尿の漏出量が、術後4週で3gと73%減少、さらに術後12週では2gと82%減少となり、術後24週でもその数値を維持している。
2例目は7月30日に実施。有害事象として肉眼的血尿や皮下出血があったが、すぐに軽快。尿の漏出量変化では、術前は1日に30gだったのが術後4週で12gと60%減少した。向山・主任部長は「尿失禁を改善することで、下着が汚れる問題のほか、いつ漏れるかわからない不安の軽減、心の問題の改善につながります」とQOL(生活の質)の向上もアピールした。
沖縄県のがん登録数は年々増加し、2019年は1万2122人。このうち男性は前立腺がんの登録が最も多く、男性の10人に1人が罹患(りかん)するとされる。県内では年間90~100人程度が前立腺摘出手術を受けた後、薬物治療やリハビリテーションに取り組むが、3~5%の患者さんは尿失禁が改善しないと見られている。
今回の再生医療は軽症や中等症の患者さんを対象に実施しているが、向山・主任部長は「重症患者さんの場合、一度の注射だけでは改善しない可能性があります。幹細胞を培養したうえで、複数回打つと改善するのではと期待しています」と展望する。同事業では今後、フルステムの医療用不織布を活用した細胞大量培養技術を使い、複数回投与の治療実証も計画している。