ハイブリッドER稼働率が大幅上昇 宇治病院 多職種連携ベースにした仕組み構築
ハイブリッドER稼働率が大幅上昇
宇治病院 多職種連携ベースにした仕組み構築
月平均18.8件 ➡ 77.6件に
HERSの運営は多職種連携がカギ(中央でサムアップしているのが畑センター長)
HERSはCT(コンピュータ断層撮影装置)とCアームの血管造影装置を配備し、外来初期診療やCT検査、TAE(動脈塞栓術)、緊急手術がひとつの寝台で行える救急初療室。一連の検査や治療が同室で行えるため、タイムロスが少なく患者さんの移動によるダメージも最小限にとどめることができる。とくに重症外傷など緊急性が高い診療時には救命率の向上が期待されている。
宇治病院は19年12月にHERSを本格稼働。CTは寝台があるスペースの隣室に配置し、平時の撮影も行いながら必要に応じて寝台のあるスペースにスライドさせる。また、救急搬入口から直線的に患者さんを導けることも特徴だ。
京都府内で初、全国でも12番目の導入施設として注目を集めたが、導入初月の実績は9件。半年ほど経っても月平均18.8件、全救急搬入件数に占める使用率は2.7%だった。
畑センター長がテコ入れ
宇治病院のHERS。必要に応じ奥のCTが手前側にスライド
こうしたなか、20年6月に畑センター長が着任。前勤務先でHERSの導入を手がけるなど豊富な経験を生かし、宇治病院のHERSの稼働率アップに着手した。当時の印象を畑センター長は「最初に連絡を受けるのは救急総合診療科と決まっていたものの、その後、誰が中心となるのか、スタッフはどう動くのかといったことが不明確でした。物はあるけど、使われていないに等しい状況でした」と振り返る。
「HERSの活用には、多様な診療科や職種がかかわることと役割分担が大事」(畑センター長)なことから、同年7月に運営委員会を創設した。HERSにかかわりやすい多様な診療科を中心に、多職種からなる部会を編成(図1)。適用症例をはじめ運用する基準やルールを定めるとともに、部会ごとにシミュレーションを実施した。内臓破裂やTAEなど具体的な症例に基づくシナリオを作成し、繰り返し行うなかで、必要な人員や物品、ルールなどを確認・修正し、業務手順に反映していった。月1回の委員会では症例検討も実施。
その結果、同年7~12月までの月平均は49.8件に増加。今年に入りシステムをブラッシュアップしたところ、7月までで月平均77.6件とさらに増え、なかには1カ月100件を超えたこともある(図2)。「コマンダーシステムを立ち上げ、リーダーの役割をさらに明確化しました。リーダーの人選をはじめコントロールルームからの指示出しなど、細かいところまでシステム化しました。皆が有機的にかかわるようになったからこそできました。最近は自分が見に行かなくてもHERSを使っているケースが少なくありません」(畑センター長)。
実績を積むにしたがい、タイムロスも軽減。たとえば外傷症例で、従来の手術室では搬入から治療開始までの時間が平均2時間44分だったのに対し、HERSでは最短52分、TAEの治療終了まで搬入から89分だったケースもあった。HERS運営委員会循環器部会のメンバーでもある弘田一世・臨床工学技科副主任(臨床工学技士)は「シミュレーションや業務手順を通じ、円滑に治療を行えるシステムを整えたことが大きい」とアピールする。
今後は院内の患者さんにもHERSを活用していく考え。畑センター長は「院内でも患者さんが急変するケースは十分考えられます。原因究明と治療を同時並行で進められるHERSであれば、救える可能性が高まるので、対応できるようにしたいです」と意気込み、「さらに劇的救命例が出てくる可能性もあります」と期待を寄せる。