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関節治療新選択肢 患者さん自身の血液用い再生医療 山形病院がPFC-FD療法

2021.09.09

関節治療新選択肢
患者さん自身の血液用い再生医療
山形病院がPFC-FD療法

山形徳洲会病院はPFC-FD(血小板由来因子濃縮物-フリーズドライ化)療法を開始した。主に整形外科領域で行う再生医療で、患者さん本人の血液中にある血小板を活用し組織の修復や痛みの軽減を促すPRP(多血小板血漿(けっしょう))療法のひとつ。対象疾患は変形性の関節症、腱板(けんばん)や靱帯(じんたい)の損傷など。同院は2018年からPRP療法、19年から"次世代PRP療法"と言われるAPS(自己タンパク質溶液)療法を実施しており、新たな治療の選択肢を設けることにより、従来の保存療法、手術療法も含め、より患者さんに最適な医療の提供を目指す。

「より適切な治療を患者さんに提供したい」と富樫部長

変形性の関節症、腱板や靱帯の損傷などに対する治療方法は、従来、リハビリテーションや投薬などによる保存療法、または保存療法で効果が得られない場合などに行う手術療法だった。しかし、近年は整形外科領域でも再生医療の導入が進み、保存療法と手術療法の中間的な位置付けで提供するケースが少なくない。

山形病院の富樫栄太・整形外科部長兼人工膝関節センター長は「一般的に従来の保存療法を行うのが大原則。そのうえで効果が得られなければ、かつては手術を行う流れでした。しかし、手術となると患者さんの時間的・身体的負担が大きいため、手術前の選択肢として再生医療を検討するようになっています」と説明する。

そのひとつがPRP療法だ。患者さん本人の血液を採取し、遠心分離で血小板に多く含まれる成長因子(細胞や組織の再生を促す物質の総称)やサイトカイン(細胞間の相互作用に関与する生理活性物質)を高濃度で抽出、患部に注入することで自然治癒力を高め、炎症を抑えたり痛みを軽減したりする効果が期待できる。主に変形性膝関節症やスポーツ障害などに用いる。

PRP療法には、PRPの精製プロセスや成分などの違いで複数の種類がある。たとえばAPS療法は、精製したPRPをさらに遠心分離・特殊加工することで、成長因子や炎症を抑える働きをもつタンパク質を、より高濃度に抽出。従来よりも精製プロセスが進化していることから"次世代PRP療法"と呼ばれている。

採取した血液を遠心分離した状態。3層の真ん中がPRP

今回、同院が導入したPFC-FD療法は"簡易版PRP療法"だ。まず患者さん自身の血液を約50㏄採取し、血液の加工を調製方法の特許をもつセルソース社に委託。同社で感染症の検査、フリーズドライ加工、無菌試験を行った後、容器に小分けした粉末状の濃縮成長因子などを医療機関に配送、治療直前に粉末を蒸留水で溶解、患部に注入する。

調整過程で、白血球を除去するため、より実施後の副作用の抑制が期待できる。「APS療法では高確率で実施後の痛みが現れます。メカニズムは完全には明らかになっていませんが、白血球が関節の腫れや痛みを強くすると言われています」(富樫部長)。

また、APS療法は厚生労働省へ届け出て受理された施設でしか行えず、かつ対象疾患は届け出た部位のみ。一方、PFC-FD療法は届け出が不要で股関節や肩、ひじなど膝以外の関節、靱帯損傷など適応範囲が広い。「フリーズドライ加工のため長期保存が可能。患者さんのタイミングで治療できる」(富樫部長)ことも特徴だ。同院の志済美樹・治験コーディネーター(CRC)も「再生医療を手がける場合、多くは膝、肩など部位を特定して行いますが、PFC-FD療法は汎用性が高いので、治療の幅は広がると思います」と期待を寄せる。

PFC-FD。成長因子などを粉末乾燥させ作製

ただし、PFC-FD療法は採血後、フリーズドライ加工されるまでに約3週間が必要。日帰りで実施できる従来のPRP療法やAPS療法に比べ、通院回数は増える。

富樫部長は効果や費用についても言及。「X線検査などを行い、一定程度のレベルであれば6~7割に効果があると言われていますが、言い換えれば3~4割は効果が得られない可能性があるということ。個人差もあります。PRP療法、APS療法、PFC-FD療法のいずれも自由診療のため、効果が見込め、患者さんに納得していただけたら行うようにしています」と説明する。

同院は6月下旬に採血を行い、7月上旬に1例目を実施。効果の有無が判明するまで3カ月半かかるため、現在は保存療法を制限し、検査など行い経過を診ている。効果が得られれば、患者さんの同意を得たうえでリハビリや投薬を再開。効果が得られなければ、手術を検討するという。「どの治療方法にも一長一短があります」と富樫部長。「患者さんに丁寧に説明しながら、状況に応じて組み合わせ、より良い医療を提供していきたいです」と意欲的だ。


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