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武富・野崎病院副院長が共同開発 急速輸液装置「SL One」上市 大量出血への対応向上など期待

2021.08.12

武富・野崎病院副院長が共同開発
急速輸液装置「SL One」上市
大量出血への対応向上など期待

野崎徳洲会病院(大阪府)の武富太郎・副院長兼麻酔科部長は、医療機器メーカーと共同で急速輸液装置「SL One」を開発、このほど上市された。冷蔵保存されている輸液剤を患者さんの体温まで温め急速注入できる装置で、加温部と送液部が一体となり、手元の操作で輸液を安定して送ることができる。救急外来での大量出血症例や、輸液剤の細やかな管理が求められる心臓手術などでの使用をイメージ。気泡除去システムなど安全面に配慮したさまざまな機能も搭載している。

「ようやく患者さんのために使えます」と武富副院長(中央)、メテクの吉岡氏(右)と星野氏

輸液は体内の水や電解質の異常を正したり、エネルギーやタンパク質の代謝を維持したりすることを目的とした薬。注射や点滴などで投与する。とくに外傷などで大量出血が起こった場合、急速かつ大量の輸液が必要となる一方、心臓手術などでは細かい管理が求められる。

使用する輸液剤は冷蔵保存されているため、臓器への負担軽減や低体温の防止などから、事前に人間の体温まで温めなければならない。また、加温する過程で生じる気泡が患者さんの体内に入り過ぎると、空気塞栓(空気が血管を塞ぐこと)を起こす可能性があるため注意が必要だ。

「SL One」は、こうした一連の過程で欠かせない処理を自動で行える。同装置は輸液剤を温める「加温部」と温めた輸液剤を患者さんの体内に送る「送液部」で構成。輸液剤から加温部内の加温器に、加温器から送液部に送られる各段階で気泡を除去、リザーバー(貯蔵庫)に排気する。

気泡検知機能とクランプ(遮断)機能を搭載しているため、患者さんに注入する前にも安全性が高い(図)。患者さんに注入する際の圧は制御され、一定に保つことが可能だ。装置上部のダイアルで送液の流速スピードの変化、タッチパネル式の画面で輸液の流量の細かい設定もできる。画面にはリザーバー残量などもわかりやすく表示。

急速輸液装置「SL One」(写真提供:アイ・エム・アイ)

武富副院長は2012年に経済産業省の課題解決型医療機器等開発助成事業のひとつとして医療機器メーカーのメテクと同装置の開発をスタート。「まだ麻酔科医として駆け出しだった頃、大量出血に遭遇し、手動で輸血したものの間に合わず患者さんを失ったことが一番の理由です。当時、上司の小田利通先生(現・葉山ハートセンター総長)から、『医師として、この経験を絶対に忘れるな』と言われたことが、ずっと心に残っていました」と明かし、「同時期に大学病院などでも大量輸液時の空気混入による死亡事故が続いたこともあり、より安全に行える方法が必要と感じていました」と説明する。

20年に薬事承認され、自院や大学病院などでの臨床評価を経て上市された。武富副院長は「試行錯誤の連続で、ようやく実現できました」と感慨深げ。「大量出血している時などは、医師は輸液以外にもいろいろなことを判断し、行わなければなりません。輸液が自動でできるのは本当に助かります。当院も徳洲会グループの一員として救急医療に力を入れているので、積極的に活用していきます」。

今後は「輸液、輸血は医療の基本。もっと多様な診療科でも活用できるように」と、装置の高度化に意欲を見せている。同装置の販売はアイ・エム・アイ。

臨床現場での使い勝手にこだわり

武富副院長と共同で開発を行ったメテク。担当した開発部の吉岡氏は武富副院長の強いこだわりについて、こう説明する。「患者さんを救いたいという思いが根底にあり、より安全に、より確実に行うには、現場の方々が使いやすい装置にすることを重視されていました」。チューブの長さやハンドルの高さなど細かい点にもこだわり、試作を繰り返すたびに武富副院長が同社を訪れ、実際に触れるなど自ら確認。改善点など直接会って話し合った回数は46回にも及ぶ。「先生が求めておられるものを形にすることに苦心しました」(吉岡氏)。

なお、装置の名称も武富副院長が命名。「SLは“Save Life”と“蒸気機関車のように力強く峠を越え目的にたどり着く”という意味を込めています」(武富副院長)。

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