湘南藤沢病院 ロボット脊椎手術をスタート 難度の高い脊柱側彎症に活用
湘南藤沢病院 ロボット脊椎手術をスタート
難度の高い脊柱側彎症に活用
「Cirq」国内第1号機導入
従来以上に精度の高い手術を支援 スクリューを挿入する位置・方向で正確に止まるロボットアーム ロボットアーム(手前)とARTIS pheno
湘南藤沢病院が治療に力を入れている脊柱側彎症は、背骨がねじれながら大きくカーブする疾患。他の疾患が起因となり合併発症する症候性側彎症と、成長期に発症する特発性側彎症があり、重症化すると心肺機能障害を引き起こす。
脊椎には重要な脊髄(せきずい)神経や血管が通り、重度変形の場合、手術には高度な技術が求められる。手術では背骨がまっすぐになるよう、スクリューやフックを用いロッド(金属の棒)と連結し、ねじれやカーブを矯正する。
より安全で正確な手術を行うため、同院は2012年10月の新築移転時に、多軸型CT様画像撮影装置Artis zeegoを導入。加えて同装置と連動する手術台、リアルタイムナビゲーションシステムからなる世界初のハイブリッド脊椎手術システムを構築。三次元の鮮明なデジタル画像とナビゲーションシステムを組み合わせ、脊髄の近くにスクリューを打ち込む場合にも、ミリ単位で正確に位置を特定しながら手術することを実現した。
さらに19年には同装置の進化版である「ARTIS pheno」を導入。基本性能がアップし、より高精細・高画質な画像の撮影が可能となり、被ばくの低減化も進んだ。
ロボット脊椎手術を開始したのは今年4月。ARTIS phenoで撮影したCT様三次元画像をナビゲーションシステムに取り込み、そのモニター画面上で画像を確認しながら、スクリューを挿入したい位置・方向・長さを外科医が指示すると、手術台に取り付けたロボットアームが自身をナビゲーションして動き出し、外科医が指示した最適な位置・方向を提示する。この後はロボットアームの先端に装着されたドリルガイド(円筒形の手術器具)に、ナビゲーションされたガイドチューブを挿入、ドリルでガイドホールを作成。ガイドホールに沿ってスクリューを挿入するという流れだ。
湘南藤沢病院の江原宗平・副院長兼脊椎センター・脊柱側彎症センター長は「より安全で精度の高い手術を行うためにロボット技術を取り入れるのは時代の流れです。当院の前身である茅ヶ崎徳洲会総合病院に2004年、徳田虎雄先生(現・ 医療法人徳洲会名誉理事長)からお話しがあって当センターを開設した当時から、手術ナビゲーションシステムを活用し、その後も最新の技術を取り入れてきました。これまで私は脊椎手術で約2万5000本のスクリューを挿入し、入れ替え率は0・1%未満と高い精度を維持してきましたが、より安全、正確な手術を追求するためにロボット脊椎手術を開始しました。症例を重ねており250本近い椎骨スクリュー(後方、前方)を極めて正確に挿入できています。ロボットアームシステム『Cirq』では世界でもっとも多くの椎骨スクリューを挿入しています。さらなる精度向上の点で手応えを感じています」と述べている。
脊柱側彎症手術の入院期間は小児や若年者は10日ほどで、高齢の方は10日~2週間ほど。手術の翌々日からリハビリを開始し、3カ月程度はコルセットを装着した生活を送る。高齢の方で骨が脆弱(ぜいじゃく)な場合は骨強化を行ったうえで手術を行う。
手術総数は4700件超 ベストドクター2度選出
脊柱側彎症の手術には前方矯正固定術と後方矯正固定術のふたつの術式があり、同院では両術式と、内視鏡を用いた小切開前方矯正固定術に取り組んでいる。これは江原副院長が考案した傷痕の目立たない術式で、若い女性を中心に好評だ。また、江原副院長は手術台の上で脊柱変形をできるだけ矯正してから手術を開始するための牽引手術システム「CORRECTION BOX」という器具も開発。
同センターが手術を開始した04年8月以降、手術総数は6月30日時点で4725件に上る(グラフ)。日本全国から患者さんが来院し、19年4月から20年3月の厚生労働省のDPC(診断群分類別包括評価)データでは、側彎症手術件数は関東で2位、全国で5位。
これまでの実績や治療に向き合う姿勢が高く評価され、江原副院長は米ベストドクターズ社から 16~17年、20~21年にベストドクターに選出。ベストドクターは医師同士の相互評価であるピアレビューにより選ばれる。江原副院長は「先日手術したご高齢の患者さんのなかには、『今までできなかったダンスをやってみたい』、『コーラスのサークルに入って活動してみたい』といった方々がおられました。若い方も含めて手術後には性格が明るくなり、笑顔も見られるようになります。これからも安全で正確な手術を心がけ、ひとりでも多くの患者さんの希望に応えられるように努力していきたい」と抱負を語っている。