お知らせ

湘南鎌倉病院・腎グループ 世界初の急性腎不全への再生医療症例 世界的な学術誌『Stem Cells Transl Med』に論文掲載

2021.05.20

湘南鎌倉病院・腎グループ
世界初の急性腎不全への再生医療症例
世界的な学術誌
『Stem Cells Transl Med』に論文掲載

湘南鎌倉総合病院(神奈川県)は、2020年に「急性腎不全に対する自家末梢(まっしょう)血CD34陽性細胞移植治療」の臨床研究1例目を実施、予想を上回る成果を得たことから、論文が細胞領域の世界的な学術誌『Stem Cells Transl Med』の電子媒体(21年5月6日付)に掲載された。CD34陽性細胞を用いた急性腎不全に対する再生医療は世界初。また、今年4月1日には同院先端医療センターが発足、同センター内に再生医療センターも立ち上がり、CD34陽性細胞を用いたさまざまな再生医療研究が進捗している。同論文の概略を紹介するとともに、研究にあたった4人の医師に再生医療の未来を語ってもらった。
s

急性腎不全は近年、急性腎障害(AKI)と呼ばれ、数時間から数日で腎臓の働きが低下し、体内から水分や不要となった老廃物を排泄(はいせつ)できなくなる病気。重症の場合には1カ月以内に死亡するケースもある。現時点で、腎障害の修復を促進しAKIを改善する治療法は確立していない。

AKI患者さんの腎臓の中では虚血と炎症が多く起きている。これらの原因(病態生理)を長年研究してきた同院腎グループでは、動物モデルのさまざまな細胞を用い再生医療の基礎研究を行ってきた。すでに同グループでは、マウスで作成した虚血再灌流(さいかんりゅう)急性腎不全モデルに対するヒト末梢血由来培養単核球細胞の有用性を報告。しかし、同グループが調べたところ、ヒト急性腎不全での細胞移植治療の有用性を示した報告は世界的にないことがわかった。

そこで同グループは「急性腎不全に対する自家末梢血CD34陽性細胞移植治療」の第1相・第2相臨床研究を第2種(特定認定)再生医療等委員会での承認、厚生局への届け出を経て、18年3月に開始した。

患者さんは30代男性、高度な高血圧から透析治療を要するほどのAKIを急に発症し入院。腎機能の指標である血中クレアチニン値は通常、1㎎/㎗程度、推算糸球体濾過(ろか)量(eGFR)は60㎖/分/1.73㎡以上だが、この患者さんはAKI発症の半年前には1.5㎎/㎗(45㎖/分/1.73㎡)程度だったが、入院時には10㎎/㎗(6.1㎖/分/1.73㎡)程度まで腎機能が低下し、入院後、血液透析治療を実施した。

全身管理と血圧管理を行い、血液透析は離脱したが、その後もクレアチニン値が5㎎/㎗程度(11.5㎖/分/1.73㎡)で推移。十分回復せず、高度な腎障害が遷延したため、十分な説明と同意、厳格なスクリーニング(選別)による適性評価を行ったうえで、同細胞移植治療を実施した。

顆粒球コロニー形成刺激因子(G-CSF)を5日間投与し、白血球全体の数を通常の5倍から8倍程度に増加させ、この中にある単核球のうち、CD34という名称のタンパク質を発現しているCD34陽性細胞のみを特殊な分離機械で(磁気的に)採取し、これをカテーテル(管)により患者さんの腎動脈に直接投与した。腎動脈から投与したCD34陽性細胞は片腎あたり4500万個、両腎で合計9000万個に上る。

いったんプラトー(水平状態)に近い状態となった腎機能は、細胞移植治療1カ月後にクレアチニン値3.3㎎/㎗(18.7㎖/分/1.73㎡)まで改善、6カ月後に2.9 ㎎/㎗(21.2㎖/分/1.73㎡)、さらにその3カ月後には2.5㎎/㎗(24.9㎖/分/1.73㎡)と、さらなる改善を認めた(表)。

同グループが実施した臨床研究の意義は、自己の細胞を用いることで、拒絶反応など免疫反応を惹起することなく、安全かつ発症後1週間以内に速やかに、血管再生と抗炎症の両方の効果を得られる治療法を見出した点にある。

ページの先頭へ