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徳洲会グループ バイオバンク・ジャパン・プロジェクト より精緻な「個別化医療」実現へ 東大とゲノム・臨床情報用い共同研究

2021.04.14

徳洲会グループ
バイオバンク・ジャパン・プロジェクト
より精緻な「個別化医療」実現へ
東大とゲノム・臨床情報用い共同研究

徳洲会グループは東京大学と共同し、ゲノム(全遺伝情報)解析情報を集積しているバイオバンク・ジャパン(BBJ)のデータと、追加収集する臨床情報などを用い新たな研究を開始する。具体的には、遺伝性腫瘍関連遺伝子による各がんの発症への影響や予後、特定の遺伝子変異を有する心筋梗塞・脳梗塞患者さんの潜在性骨髄増殖性腫瘍との関連性などを解き明かす。徳洲会は2003年4月にスタートした文部科学省のオーダーメイド(個別化)医療実現化プロジェクトに参画、「一人ひとりの体質に合った医療」を実現する研究基盤となるBBJの構築に協力してきた。今回の共同研究により、より精緻な個別化医療へ道が開けそうだ。

医薬品開発や治療効果予測など期待

「より精緻な個別化医療の実現へ研究を進めたい」と松田教授 「より精緻な個別化医療の実現へ研究を進めたい」と松田教授

オーダーメイド医療実現化プロジェクトは第1期(~08年3月)、第2期(~13年3月)を通じ、がんや糖尿病、ALS(筋萎縮性側索硬化症)など47疾患・20万人の患者さんの遺伝子情報などを収集。第3期(~18年3月)では新たに38疾患・6万7000人の遺伝子情報などを収集し、BBJを構築。全体では51疾患・26万7000人・44万症例という世界最大級の疾患バイオバンクとなっている。バイオバンクとは一般の方々や患者さんから提供されたDNA(デオキシリボ核酸)や血清などを保管する倉庫やそのデータベースを指す。

第3期で同プロジェクトは終了したが、徳洲会グループは収集・解析したDNAや血清などの情報を研究者に提供するBBJプロジェクト(事務局:東大医科学研究所)として継承していた。

徳洲会は①社会貢献、②トランスレーショナルリサーチ(臨床への橋渡し研究)への貢献、③基礎研究から臨床応用への期待──などの理由から、開始当初より協力医療機関として試料提供や臨床研究への参画などを通じ、同プロジェクトを全面的に支援。BBJに登録されている26万7000人分の試料のうち、おおむね半分程度は徳洲会によるものだ。1期~3期にかけ、その時々の患者さんの状態を表す血清採血や臨床情報の更新、生存調査といった追跡調査にも取り組んだ。

27万人分を保管するDNAバンク(画像提供:松田教授)27万人分を保管するDNAバンク(画像提供:松田教授)

BBJプロジェクトに携わる東京大学大学院新領域創成科学研究科メディカル情報生命専攻クリニカルシークエンス分野の松田浩一教授は「BBJは約15年の歳月をかけて構築してきた非常に有用性の高い、日本の医療にとって重要なデータベースです。ヒトの遺伝子は約2万種類ありますが、ゲノム解析が進んだ結果、ある疾患をもった患者集団の遺伝子を調べるというアプローチと、その逆に、非常にまれな遺伝子変異が見つかった場合に、その遺伝子変異による影響を調べたり、さらに詳しく検討するため、その患者さんの臨床情報を集めて研究したりするアプローチも取られるようになっています。こうした研究は、将来的に医薬品の開発や治療効果の予測、副作用の少ない治療法の選択などに役立つと考えています」とプロジェクトの意義を語る。

遺伝子の変異による各種がんリスク推定

血清バンクはマイナス150℃の液体窒素で保管(同)血清バンクはマイナス150℃の液体窒素で保管(同)

徳洲会グループが東京大学と新たに開始する研究は、①疾患コホート(要因対照)研究ネットワークによる疾患マーカー探索研究、②集団遺伝学的解析による日本人集団の成り立ちの解明──のふたつ。

①の研究では、腫瘍の発現などに関与する遺伝子変異による各種がんのリスクの推定を目指す。正確なリスクの推定が可能になれば、適切な時期に適切な検査や治療を行うことが可能になると期待されている。

具体的には大腸がん、前立腺がん、胃がん、乳がん、肺がん、肝がん、造血器腫瘍、食道がん、子宮体がん、子宮頸(けい)がん、卵巣がん、膵(すい)がん、胆嚢(たんのう)がん、腎がんの14種のがんについて横断的な解析を行う。これらのがんに関連する計27種の変異遺伝子による各がんの発症割合や臨床情報との関連、予後などを検討する。

そのためには臨床情報を追加収集する必要があり、また今回は遺伝以外の要因による疾患発症の影響についても検証する目的があることから、たとえば胃がんであれば、ピロリ菌の保菌情報、子宮頸がんに関してはヒトパピローマウイルスの型、肺がんのEGFR遺伝子変異情報などの臨床情報を収集。これに徳洲会グループは協力する。

また、心筋梗塞、脳梗塞の既往がある患者さんのなかで、特定の遺伝子変異を有する方を対象に、血液検査の情報や心筋梗塞、脳梗塞の再発、真性赤血球増加症、本態性血小板血症、脳出血、高血圧、糖尿病、高脂血症、喫煙歴など疾患の有無に関する情報を追加収集する。この研究では心筋梗塞や脳梗塞の発症を未然に防ぐ介入方法の発見につながることが期待されている。また、皮下脂肪織炎様T細胞リンパ腫に関連していると考えられている遺伝子変異を有する患者さんを対象とした臨床情報の追加収集にも取り組む。

②の研究は、日本人の遺伝構造の地域差に関して科学的・定量的な裏付けを行い、遺伝的多様性を適切に考慮した疾患予測や適切な治療選択の基盤を確立するのが目的だ。

「北海道から沖縄、奄美の離島まで全国に展開する徳洲会グループの協力があるからこそ可能な研究で、大変期待しています。日本人の遺伝的な成り立ちを探ることにもなる興味深い研究になると思います。将来的には、疾患リスクの定量化や投薬治療の効果を予測する仕組み、より精緻な個別化医療の実現に寄与すると考えています」(松田教授)

徳洲会は倫理審査など適切な手続きを経て、医学研究の発展に貢献するため、①の研究に対し15病院が追加の情報収集を行い、②の研究に関しては47病院が協力(②は臨床情報の追加収集はともなわない)。

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