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新型コロナワクチン 宇治病院が1瓶7回接種方法考案 インスリン皮下注射用注射器に着目

2021.03.16

新型コロナワクチン
宇治病院が1瓶7回接種方法考案
インスリン皮下注射用注射器に着目

宇治徳洲会病院(京都府)は、新型コロナ用の米ファイザー製ワクチンを1バイアル(瓶)から7回接種できる方法を考案した。ワクチンロスがほぼないインスリン皮下注射用注射器を活用する。ただし、同ワクチンの接種は筋肉注射と定められているため、超音波診断装置(エコー)で皮下脂肪厚を測定し、針の短い同注射器でも筋肉に注射できることを確認することが適用条件だ。

皮下脂肪厚を測定し筋注可能か確認

「貴重なワクチンを有効使用できる方法です」と末吉院長「貴重なワクチンを有効使用できる方法です」と末吉院長
接種を希望する職員全員分を実施接種を希望する職員全員分を実施

ファイザー製の新型コロナワクチンは昨年12月から欧米を中心に接種が行われている。国内では2月14日に厚生労働省が正式に承認し、17日から医療従事者などの一部、3月に入り、それ以外の医療従事者などへの優先接種が進行している。

同ワクチンの接種では1瓶から6回接種できる特殊な注射器があるが、現状では大量確保が難しい。一般的な注射器は1瓶から5回接種となる。

回数が減る要因は注射器と注射針の構造にある。一般的な注射器には、注射器の先端と針基(注射器先端に取り付ける針の根本の樹脂製部分)に、それぞれデッドスペースがあり、充塡(じゅうてん)したワクチンの一部が残ってしまう。一方、特殊な注射器は、よりデッドスペースが少ないためワクチンのロスも少ない。その分、1回多く接種できるというわけだ。

宇治病院の末吉敦院長は、このデッドスペースに着目。「インスリンが貴重なため、デッドスペースがゼロになるように設計」(末吉院長)されているインスリン皮下注射用注射器の活用を発案するに至った。

このアイデアが生まれたのは、「3月1日に一般的な注射器しか手に入らないことがわかりました。当院では1250人の職員が接種を希望していましたが、それでは入手予定のワクチンの総量から計算し、275人が接種できないと気付きました。ファイザー製ワクチンは1瓶当たり0・45㎖の原液を1・8㎖の生理食塩水で希釈して使用することが添付文書に明記されています。これにより合計2・25㎖となり、1人当たり規定投与量は0・3㎖なので、1瓶で7回分を確保できます。極力、ロスをなくし使いきる方法はないかと模索するなかで、思い付いたのです」(同)。

懸念されたのが注射針の長さだ。同ワクチンは筋肉注射のため、皮下組織の下層にある筋肉まで針が到達しなければならない。インスリン用注射器は皮下用であるため、一般の注射器よりも針が短く、肥満などで皮下脂肪が厚い人には活用できない。解決策を得ようと文献を探すなか、ある論文が末吉院長の目に留まった。

一般的な注射器(左)とインスリン皮下注射用注射器。針の長さや構造が異なる

「330人の日本人を対象に、筋肉注射をする部位の皮下組織の厚さをエコーで測定した内容でした。それによると男女ともに平均が当院使用のインスリン用注射器の針の長さ12・7㎜を下回っていたのです。インスリン用注射器の針でも筋肉に届く可能性が高いと考え、すぐに同注射器の確保に努めました」(同)。

同院はワクチンが到着した3月5日に院内の倫理委員会を開き、接種希望者から書面による同意を得たうえで、この方法を実施することを決定。同日、エコーで注射部位の筋肉までの皮下脂肪厚を測定しながら、2瓶で14人に接種した。「インスリン用注射器7本はもちろん、インスリン用注射器5本に一般的な注射器2本でも1瓶から7回分接種できました」と末吉院長。

筋肉注射のイメージ

1瓶から7回分を確保。皮下組織(脂肪)の厚さで注射器を変え対応1瓶から7回分を確保。皮下組織(脂肪)の厚さで注射器を変え対応

接種した14人の筋肉までの距離は平均6・4㎜、最大9・1㎜で、なかには腕が細く、筋肉注射の標準の注射針25㎜では骨まで届いてしまう人が、2人いたことを明かし「皮下脂肪厚の測定は非常に有益だと思われます」と示唆している。

初日をふまえ6日以降は、皮下脂肪厚10㎜未満ではインスリン用注射器、10㎜以上では一般の注射器を用い、順次、接種を実施。12日に希望した職員1250人分すべてを終えた。一般的な注射器を使用した割合は2割弱(3月11日時点、1044人分)で、1瓶につきインスリン用注射器6本、一般的な注射器1本くらいの割合で臨んだ。

「接種を希望している職員には全員受けてもらいたいという思いから生まれた方法です。ワクチンは潤沢にあるとは言えず、この機会を逃せば次にいつ接種できるかわかりませんでした。ひとりでも多くの接種希望者にワクチンが届くよう今後も知恵を絞っていきたいです」と末吉院長は話している。

同院の方法について、国は3月9日に一定の条件下で容認する見解を示した。一般社団法人徳洲会も通知をとおし「限られた供給のなかでワクチンを有効に活用するひとつの方法」として、各施設に対し実施する場合は手順など一定の条件を確認したうえで検討するよう呼びかけている。

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