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下肢静脈瘤の新治療法 医療用接着剤を用い血管塞栓 庄内余目病院が山形県で初導入

2021.02.24

下肢静脈瘤の新治療法
医療用接着剤を用い血管塞栓
庄内余目病院が山形県で初導入

庄内余目病院(山形県)は下肢静脈瘤(りゅう)に対する新しい治療法である血管内塞栓術(グルー治療)を開始した。これは専用のカテーテルを用い下肢の静脈内に医療用接着剤を注入して血管をふさぐ治療法。身体への負担が小さく手術後の行動制限もほとんどない。2019年12月に保険適用となった。医療機器メーカーによると、導入施設は全国に約140施設(20年12月時点)。山形県では同院が初で、昨年10月に1例目の治療を実施した。

手術当日に車の運転可能

「都市部と同等の医療を」と嶌田部長「都市部と同等の医療を」と嶌田部長

下肢静脈瘤は脚の静脈にある弁の機能が低下し、血液が逆流することによって発症。血液がたまり、こぶのようにふくらんだり網目状に浮き上がったりする。また、脚のだるさやむくみ、かゆみ、こむら返りなどを引き起こし、重症化すると黒く色素沈着したり潰瘍ができたりする。

長時間の立ち仕事や肥満、出産、加齢、遺伝などが要因と言われる。良性の疾患で、生命にかかわる疾患ではないものの、自然には治癒せずQOL(生活の質)を損なう疾患だ。

庄内余目病院が導入したのは「VenaSeal(ベナシール)クロージャーシステム」という下肢静脈瘤治療用の医療機器。同院はこれまでも下肢静脈瘤に対し高周波による血管内焼灼(しょうしゃく)術に取り組んでおり、新たな治療の選択肢として血管内塞栓術を開始した。

医療用接着剤を下肢静脈瘤のある血管に注入(画像提供:日本メドトロニック)医療用接着剤を下肢静脈瘤のある血管に注入(画像提供:日本メドトロニック)

具体的には、ひざの横から超音波ガイド下にカテーテルを挿入、静脈内に医療用接着剤を注入し圧迫する。一定間隔でこの注入と圧迫を繰り返していく。接合部位の組織が線維化し、長期にわたり標的血管を閉塞する。米国の臨床試験データによると、治療から3年後の閉塞率は94・4%という高い成績だ。

下肢静脈瘤治療に取り組む同院心臓血管外科の嶌田泰之部長は「手術時間は両脚でも1時間程度です。ひざ付近のみへの局所麻酔ですむため、痛みが少なく、治療後に弾性ストッキングを着用する必要もありません。さらに、そのまま車を運転して帰宅し、当日に夜勤の仕事があればそれも可能です。当日にシャワーを浴びることもでき、翌日から入浴できます」と強調。昨年10月26日に1例目の治療を行い、これまでに症例は30例(38肢)を数える(2月17日時点)。いずれも治療後の経過は良好だ。

高周波血管内焼灼術は、太ももの付け根からひざまでの広範囲に局所麻酔を行う。このため術後にある程度の運動制限が必要。また麻酔の量が多くなることから一度に片脚ずつの治療となる。

「当院のある地域は農業を営む方が多く、また介護職などの方々も含め、まとまった時間を確保するのが難しい現実があります。また、自家用車で来院し、ご自身で運転して帰りたいというニーズが強い地域です。そこで、そうしたニーズに応えられる治療法として開始しました」(嶌田部長)

患者さんの身体に負担の小さい低侵襲治療患者さんの身体に負担の小さい低侵襲治療

ただし、静脈瘤の状態やタイプ、患者さんが希望する治療効果によって、適した治療法が異なるため、血管内塞栓術が、どのような症例にも適した治療法というわけではないという。たとえば血管内塞栓術では、症状は治まるが、ボコボコとした静脈瘤が完全には治らないことがある。見た目が気になる場合は、後日、静脈瘤内に硬化剤を注射して血管を固め目立たなくすることで対応する。1回の治療で症状とこぶを治すには、高周波血管内焼灼術が適している。また、アレルギー体質の患者さんには血管内塞栓術が適さないことがあるという。

同院は患者さんの希望をふまえ適切な治療法を選択。なお、嶌田部長は月に2回、山北徳洲会病院(新潟県)で、月1回、新庄徳洲会病院(山形県)で下肢静脈瘤外来の診療を行っており、こうした患者さんのなかには庄内余目病院で血管内塞栓術を受けた方もいる。嶌田部長は「都市部と同等の医療を地域の患者さんに提供していきたい」と抱負を語っている。

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