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再生医療「APS療法」 山形病院が15例突破 変形性膝関節症の治療選択肢増える

2020.8.4

再生医療「APS療法」 山形病院が15例突破 変形性膝関節症の治療選択肢増える

山形徳洲会病院が昨春から開始したAPS療法が15例を突破、堅調に実績を伸ばしている。同療法は整形外科領域の再生医療のひとつで、患者さん本人の血液から作成した高濃度の血小板を用いて組織の再生を促す。いわゆるPRP(多血小板血漿(けっしょう))療法にあたるが、PRPの精製プロセスが従来よりも進化していることから、“次世代PRP療法”と呼ばれている。対象は成人の変形性膝関節症。同院は多様な治療方法を組み合わせて同疾患に対応しており、新たな治療の選択肢が増えたことになる。同療法は保険適用外のため、フォロー期間中の再診料などまでは自費となる。

次世代多血小板血漿「PRP」療法

「治療選択肢の増加は患者さんに良いこと」と大沼副院長「治療選択肢の増加は患者さんに良いこと」と大沼副院長

変形性膝関節症は、膝のクッションのような役割を果たす膝関節の軟骨が、すり減って炎症を起こしたり、関節が変形したりして膝に痛みや腫れが見られる疾患。軽症のうちは立ち上がりなど動作を開始する際に、痛みをともなうケースが多いが、重症化すると屈伸動作や歩行すら困難になり、日常生活が送れなくなるケースも少なくない。原因は老化や肥満、スポーツなどによるけがなどが挙げられ、また、日本では男性よりも女性に多く見られる。

治療方法は、主に手術と保存療法に分けられ、手術は、軟骨をすべて削って人工物で覆う「人工関節置換術」や、脚の変形を正し軟骨がない部分への負担を軽減することで軟骨の再生を試みる「骨切り術」などが挙げられる。一方、保存療法は「リハビリテーション」や関節液の弾力性などを補う「ヒアルロン酸注射」などがある。

同院では大沼寧・副院長兼整形外科部長が以前からこれらの治療方法を組み合わせて変形性膝関節症の患者さんに対応。大沼副院長は「当院では、さらに靴や足底装具で症状の改善を図る“靴・インソール外来”も開設しています。本当にさまざまな方法でアプローチします」と強調する。

変形性膝関節症のイメージ

こうした方針の下、新たな治療の選択肢として昨春から開始したのがAPS療法だ。まず採血した患者さん自身の血液を専用の遠心分離機にかけ、血小板を抽出。通常よりも濃縮し、これを患部に注射することで細胞の増殖や分化調整機能などをもつサイトカイン(免疫システム細胞から分泌されるタンパク質で、複数の種類がある)が大量に放出され、組織の再生や傷の治癒を促す。この治療方法はPRP療法と言われるが、APSは遠心分離機に2回かけることで、さらに血小板やサイトカインを豊富に抽出できることから“次世代のPRP”と言われている。「APSやPRP療法は、どの医療機関でも行えるわけではありません。再生医療法(再生医療等の安全性の確保等に関する法律)を順守し、厚生労働省などの認可が必要になります。当院は徳洲会グループのバックアップのおかげで、東北地方で初の認可施設となりました」(大沼副院長)

同院での治療は、まず予約をしたうえで外来を受診。患者さんの状態や希望などを総合的に判断し、APSを行うこととなれば、2回目の受診時に採血から関節内への注射までを行う。2回の遠心分離を含め、採血から注射までは1時間程度かかる。

その後は再生医療法に基づき注射から1カ月後、3カ月後、半年後、1年後と定期的にフォロー。外来受診となるが、遠方の方には電話での再診にも対応している。大沼副院長は「疼痛(とうつう)のスコアや患者さんの自覚症状の有無などで治療後の評価をしていきます。原則、通院による受診になりますが、なかには青森県からAPS療法を受けられた患者さんもいて、その方には電話で対応しました」と説明する。APS療法は保険適用外のため、フォロー期間中の再診料などまでは自費となる。

同院は7月末までにAPS療法を16例実施。そのうち14例は効果判定できるようになった。大沼副院長は「APS療法は、あくまでも治療方法のひとつ。すべてのケースに効くわけではありません」としながらも、「治療の選択肢が増えること自体は、患者さんにとってメリットがあります。できるだけ患者さんに最適な治療を提供できるように今後も努力します」と意気軒高だ。

なお、同院はAPS療法に先駆けて、18年から成人のスポーツ選手や高齢者を対象とした難治性のけが、筋・腱炎(けんえん)などへのPRP療法を実施している。

APS療法のイメージ

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