お知らせ

自分の分身のようなロボット アバターで遠隔診療

2020.7.21

自分の分身のようなロボット アバターで遠隔診療

米国のジェームズ・キャメロン監督による映画『アバター』のように、自分の分身のようなロボットが近い将来、医療に従事する時代が到来しそうだ。まさに現在、このアバターを開発しているのがANAホールディングスの子会社アバターインだ。アバターとは遠隔地に置いたロボット(アバター)に、意識、技能、存在感を瞬間移動させ、自分の分身のように「見て」、「聞いて」、「触る」ことができる技術だ。すでにプロトタイプ(原型)が、活躍の場を求め動き出している。

width&after新技術特集

アバターインが開発したアバター「newme(ニューミー)」は、遠隔地に置いたアバターを端末から操作し動かす。操縦者が用いる端末とアバターがインターネットでつながる環境にあれば、操縦者とアバターがどんなに遠く離れていても操作可能だ。たとえば操縦者が東京のオフィスにいて、フランスのルーブル美術館にアバターが置いてあれば、東京にいながらにしてルーブル美術館巡りができる。

ルーブル美術館以外にも世界のさまざまな観光地にアバターが置いてあれば、操縦者が次々とアバターにインすることで、世界観光が可能だ。まさにアバターに操縦者が乗り移り、瞬間移動したかのような感覚を体験できる。

新型コロナウイルス感染患者専用の臨時の医療施設(神奈川県)にあるアバター新型コロナウイルス感染患者専用の臨時の医療施設(神奈川県)にあるアバター
アバターにインする藤田安彦院長。「まるでアバターと一体化したような感覚です」アバターにインする藤田安彦院長。「まるでアバターと一体化したような感覚です」

この技術特性は医療分野でも大いに活用可能だ。現在、神奈川県が設置し湘南鎌倉総合病院(神奈川県)が運営している新型コロナウイルス感染患者専用の臨時の医療施設で、アバターが活躍している。具体的には、患者さんが入院している、いわゆるレッドゾーン(感染リスクがきわめて高いエリア)と呼ばれる病棟にアバターを1台配置し、その病棟と完全隔離された安全なナースステーションから医師がアバターを操縦、アバターを通じ問診を行っている。

横浜港に停泊していた大型クルーズ船の乗組員の感染者が入院した葉山ハートセンター(神奈川県)でも、同様にアバターが患者さんを問診した。

新型コロナ以外でも、湘南鎌倉病院はアバターを透析患者さんの見守りに用いた。一般社団法人徳洲会医療安全・質管理部の海老澤健太・課長補佐は、「従来は患者さんの見守りに職員を割いていましたが、アバターを配置することで、省人化につながりました」と有用性を指摘する。

鹿児島県の離島、徳之島にある徳之島徳洲会病院にもアバターを1台配置し、遠隔診療での活用を模索している。“離島の離島”と呼ばれ、医療機関が存在しない請島にアバターを配置し、遠く離れた奄美大島にある名瀬徳洲会病院の医師がアバターを通じ、問診する計画もある。請島から奄美大島の最寄りの港までは1日1便の連絡船が運航しているが、1時間程度の乗船が必要で、波高が10mに達すると欠航してしまう。「アバターが請島にあれば、島の高齢の患者さんには朗報と言えます」と名瀬病院の松元健晃・事務部長は期待を寄せている。

現在のアバターは、4輪の機動部にモニターを付けた支柱を設置したプロトタイプと呼べるものだが、開発元のアバターインはソニーの子会社ソニーAIと協力し、より人間の分身に近くなるよう高度化していく方針だ。

仮想現実で手術を綿密シミュレート

CT(コンピュータ断層撮影)やMRI(磁気共鳴画像診断)データから生成した三次元データをVR(仮想現実)/MR(複合現実)で活用できるようにしたクラウドサービスがある。ホロアイズが開発した「Holoeyes XR」がそれだ。

これまで医師はCTなどで撮影した二次元の画像を見ながら、脳内で三次元に変換していたが、同サービスは個々の患者さんのVRアプリを素早く作成することができ、まるで自分が患者さんの体内に入り込んだような感覚で臓器や血管、神経の位置関係を高い解像度で認識でき、手術を綿密にシミュレーションすることが可能だ。

また、シースルーの眼鏡型機器を用いれば、実空間を見ることができ、実空間上に臓器を重ね合わせて表示できるのも特徴。操作は空中で指先を動かすジェスチャーだけで行え、機器に触れなくてもいい。

さらにパソコンなどを同期させ、複数人が同じビジュアル空間を共有しながらコミュニケーションを取ることができるため、遠隔地との症例共有も可能だ。術前カンファレンスや教育、学習、患者説明に有用。すでに多くの大学病院など医療機関や学術会議などで活用されている。

ページの先頭へ