辻・吹田病院部長 医療の役割は“幸福”創出 ACPテーマに論文を寄稿
2020.6.23
辻・吹田病院部長 医療の役割は“幸福”創出 ACPテーマに論文を寄稿
吹田徳洲会病院(大阪府)の辻文生・地域医療科部長は、大阪府薬剤師会が発行する『大阪府薬雑誌』5月号に「ACP(人生会議)をともに考える」というテーマの論文を寄稿した。辻部長は“医療の役割は幸福を創ること”をモットーとし、「平均寿命や健康寿命よりも“幸福寿命”の延伸を目標に掲げています」と強調。そして幸福寿命の延伸には、老若男女一人ひとりが自身の死に向き合うことが大切と説く。「死を意識することによって人生はずっと充実する」との考えからだ。インタビュー内容も交えながら論文の概要を紹介する。
「死を意識することで人生は充実」と辻部長
「急性期医療の役割として救命や治療に全力を尽くしてきました。しかし、退院した高齢の患者さんがその後、生きがいを見出すことができず、寂しい生活を送るなかで最期を迎える姿をたくさん診てきました。意思疎通の取れない寝たきりの誤嚥性肺炎の患者さんに対する治療なども行ってきました。そうしたなかで『この治療は患者さんが望む治療なのか』、『患者さんは果たしてそれで幸せなのか』と自問自答を繰り返しました」(辻部長)
このような葛藤に対する答えが“幸福を創るための医療”の実践だ。辻部長は吹田病院への入職と同時に、主戦場を急性期医療の現場から、じっくりと患者さんと向き合える慢性期医療に軸足を移した。同院に新たに開設した地域医療科や地域包括ケア病棟を実践の場に選んだ。
近年、メディアで取り上げられる機会が多くなったACP。辻部長は「患者、家族、医療従事者の話し合いを通じて、患者さんの価値観を明らかにし、将来の意思決定能力の低下に備え具体的な治療やケアについて話し合うプロセス」とACPを定義。「注意しなければならないことは、事前指示を取ることをACPと勘違いしている医療従事者が、まだまだ多くいるということです」と説明する。
日本老年医学会が「ACP推進に関する提言(2019)」で「本人の価値観、信念、思想、信条、人生観、死生観、気がかり、願い、人生の目標、医療・ケアに関する意向、療養の場や最期の場に関する意向、代弁者などについて話すことが望ましい」と呼びかけているように、ACPで話し合うべき内容が多岐にわたることを力説する。
幸福と思える人生の締めくくりとして、自身の死生観などに基づき納得のいく最期を迎えることは、欠かすことのできない大切なものだ。しかし、多くの人はACPの重要性に気付いてはいても、実際の行動に移せているのは少数派。どう行動変容を促していくかが今後の課題だと指摘する。
辻部長は同院での医療活動を通じ「患者さんが退院してからも、地域や人とのつながりをもちながら、役割や目的をもって幸せに生活していけるお手伝いをしていきたい」と意欲的だ。
同院地域医療科のホームページ(https://www.suita.tokushukai.or.jp/sp/section/community_medicine/)上で論文の全文を閲覧できる。