南部病院 がんの痛み取りQOL向上 疼痛治療外来を開設
2020.6.15
南部病院 がんの痛み取りQOL向上 疼痛治療外来を開設
南部徳洲会病院(沖縄県)は新たに疼痛(とうつう)治療外来を開設した。神経ブロック療法などを駆使して眠気のない除痛を行い、がん患者さんのQOL(生活の質)向上を目指すのが目的。同外来は中部徳洲会病院(同)の服部政治・疼痛治療科統括部長がバックアップする。各地にある徳洲会病院の求めに応じて、同院疼痛治療科の医師が出向き治療を行う「モバイル・エキスパート構想」も加速している。
「モバイル・エキスパート構想」加速
南部病院の疼痛治療外来をバックアップする中部徳洲会病院疼痛治療科(左から)立花潤子副部長、服部・統括部長、前知子部長、溜渕昌美医長
服部・統括部長は2019年3月に中部徳洲会病院に疼痛治療科を開設した。沖縄県や離島、さらには日本全国で疼痛治療を展開すると同時に、疼痛治療に携わる医療スタッフを育成するのが目的。1年間で大阪府、東京都、神奈川県、離島の徳洲会病院で疼痛治療を展開した。そのなかで19年の後半から、沖永良部徳洲会病院(鹿児島県)に毎週、医師を派遣し、多くのがん患者さんに対し専門的な痛みの治療を実践。服部・統括部長は「沖永良部島で、あれだけ需要があるのだから、他の離島や沖縄本島で、この治療を必要としている人は必ずたくさんいるはずだと考えました」。
服部・統括部長は「まず沖縄本島での疼痛治療を充実させずに、離島や日本全国を充実させることはできない」と判断し、南部病院に相談。同院の赤崎満院長と意見が一致し、同院での疼痛治療外来開設が実現した。
同外来は予約制で、まずは2週間に1回ほど実施する計画。がんの痛みで困っている患者さんがいた時に、主治医または緩和ケア医が専門的な疼痛治療を中部徳洲会病院疼痛治療科に依頼、同院から医師を派遣する。
普通の生活を送るために
がんの痛みには、がんそのものがもたらす痛み、がんが転移した部位の痛み、がん治療にともなう痛みなど多くのものがある。これらの痛みを放置すると、日常生活に支障を来すだけでなく、治療にも影響を及ぼしかねない。また、寝たきりの状態が続くと筋力の低下、やる気の減退といった廃用症候群を引き起こす原因にもなる。
痛みを軽減するには、一般的にモルヒネやオキシコドンという医療用麻薬を使用する。これは脳や脊髄(せきずい)に作用して痛みを抑える薬。日本では、厳しい基準の下で処方、管理しているため、中毒になる心配はない。しかし、医療用麻薬でも取れない痛みは数多くあり、もし麻薬だけで痛みを取ろうとすると、量を増やさなければならなくなる。この場合、副作用がひどく、意識がはっきりせず寝たままの状態になるケースも少なくない。
一方、服部・統括部長は「疼痛治療には、がんの痛みを取りながらも、眠気に襲われることなく普通の生活を可能にする手技があります」とアピール。そのひとつである神経ブロック療法は、痛みを感じている神経を破壊して痛みを感じにくくする治療だ。
痛みは身体の不調を知らせる大切なセンサーだが、がんの痛みでは、そのセンサーがずっと作動した状態になる。「そのセンサーを停止させる(神経破壊)ことで、痛みを感じにくくしたり、苦痛が和らいだりするので、結果的に医療用麻薬の量を減らすことができます」(服部・統括部長)。他に脊髄の近くにカテーテルを入れて、直接的に鎮痛剤を投与する脊髄鎮痛法などもある。
痛みから解放されることで、患者さんのQOL向上と、がん治療の促進を目指す。服部・統括部長は「人は死ぬギリギリまで生きています。生きているというのは、ただ心臓が動いていれば良いというものではなく、ご家族と会話ができる、ある程度の日常生活ができる状態です。その状態を支えることが、医療のひとつの使命だと思っています」と強調する。現状では、がんの痛みだからという理由だけで、多量の医療用麻薬を使用し、日常生活を取り戻すことなく、眠気が強くなって寝たきりのまま亡くなるケースが多い。
服部・統括部長は「がんがあっても笑っていられ、大好きな子どもや孫を抱っこすることができるようにしたいと思います。そうすれば寄り添うご家族にとっても、残された時間を、寝ている患者さんを見守るだけではなく、いろいろと話しながら、思い出に残る時間にすることができるはずです」と思いを明かす。
痛みを軽減するには、一般的にモルヒネやオキシコドンという医療用麻薬を使用する。これは脳や脊髄(せきずい)に作用して痛みを抑える薬。日本では、厳しい基準の下で処方、管理しているため、中毒になる心配はない。しかし、医療用麻薬でも取れない痛みは数多くあり、もし麻薬だけで痛みを取ろうとすると、量を増やさなければならなくなる。この場合、副作用がひどく、意識がはっきりせず寝たままの状態になるケースも少なくない。
一方、服部・統括部長は「疼痛治療には、がんの痛みを取りながらも、眠気に襲われることなく普通の生活を可能にする手技があります」とアピール。そのひとつである神経ブロック療法は、痛みを感じている神経を破壊して痛みを感じにくくする治療だ。
痛みは身体の不調を知らせる大切なセンサーだが、がんの痛みでは、そのセンサーがずっと作動した状態になる。「そのセンサーを停止させる(神経破壊)ことで、痛みを感じにくくしたり、苦痛が和らいだりするので、結果的に医療用麻薬の量を減らすことができます」(服部・統括部長)。他に脊髄の近くにカテーテルを入れて、直接的に鎮痛剤を投与する脊髄鎮痛法などもある。
痛みから解放されることで、患者さんのQOL向上と、がん治療の促進を目指す。服部・統括部長は「人は死ぬギリギリまで生きています。生きているというのは、ただ心臓が動いていれば良いというものではなく、ご家族と会話ができる、ある程度の日常生活ができる状態です。その状態を支えることが、医療のひとつの使命だと思っています」と強調する。現状では、がんの痛みだからという理由だけで、多量の医療用麻薬を使用し、日常生活を取り戻すことなく、眠気が強くなって寝たきりのまま亡くなるケースが多い。
服部・統括部長は「がんがあっても笑っていられ、大好きな子どもや孫を抱っこすることができるようにしたいと思います。そうすれば寄り添うご家族にとっても、残された時間を、寝ている患者さんを見守るだけではなく、いろいろと話しながら、思い出に残る時間にすることができるはずです」と思いを明かす。
生きて活動すること全う
疼痛治療科以外の医療スタッフも重要な役割をもつ。がん患者さんの痛みの治療方法を考えるのは、その患者さんを担当している医師、看護師なども同じだ。患者さん自身や家族は、ほかに痛みの治療方法があることを知らない。だからこそ医療スタッフが、いろいろな知識や選択肢をもっていることが重要になる。
服部・統括部長は「『もしかしたら患者さんにとって、もっと良い方法があるのでは』と、医療スタッフはつねに疑問をもってほしいと思います。緩和ケア関連の学会などで『私たちは何もしてあげられなかった。あの時、何ができたのか』と反省している発表をよく見ますが、大きな間違いです。自分に何ができるのかではなく、“患者さんに何が必要なのか”を第一に考えることが大事なのです」と説く。
こうした医療スタッフをサポートする取り組みとして、「モバイル・エキスパート構想」を推進している。これは、各地にある徳洲会病院の求めに応じ、動けない患者さんの代わりに、中部徳洲会病院疼痛治療科の医師が、その病院に出向き治療を行うという構想だ。同時に、希望があれば麻酔科の医師や看護師など医療スタッフに知識・技術を伝えるのも狙いだ。
この拠点として服部・統括部長は沖縄県を選んだ。「離島と日本全国のどちらに行くにしても便利だと考えました。沖縄にいれば、東京へも大阪へも直行で行くことができ、離島へのアクセスも可能です。もちろん南部病院は島内なので、すぐに駆け付けることができます。また、医師の派遣だけでなく、麻酔科の専門医が新たな知識や技術を求めて、沖縄に学びに来ていただくのも歓迎です。ぜひ、お越しください」と呼びかける。
「痛みは目に見えないもので、本人にしかわからないもの。がんの場合は増悪したり、強い恐怖が付きまとったりします。しかし、痛みを取ることにより、生きる望みが出てくる患者さんもいますし、前向きな気持ちも生まれます。私の理想は〝死ぬ1秒前まで痛くない〟ことです。がんを患っていても、慢性疾患を抱えていても、人として生きて活動することを全うしてもらいたい、それが究極の目標です」と語気を強める。