NPO法人TMAT 南アフリカ共和国で外傷研修を実施 銃創・刺創治療など診療スキル習得
2020.5.27
NPO法人TMAT 南アフリカ共和国で外傷研修を実施 銃創・刺創治療など診療スキル習得
国内外の被災地で医療支援活動などを行うNPO法人TMAT(徳洲会医療救援隊)は、銃創や刺創など外傷治療の研修を行うため南アフリカ共和国に隊員を派遣した。日本では東京五輪や大阪万博など数多くの大規模な国際イベントを控えており、銃を使った事件やテロなどが発生する恐れがある。一方、日本には銃創や刺創といった重度外傷に対する診療スキルをもった医療従事者が少ないのが現状だ。そこでTMATはこうした外傷に対応できるようにするため、世界でも症例数の多い南アフリカのトラウマ(外傷)センターで研修を実施した。
6人が1カ月にわたり貴重な体験
銃撃された患者さんの体内から摘出した弾丸
派遣隊員は、第1陣から第3陣まで2人1組で計6人。2019年10月から12月末までそれぞれ1カ月間現地に滞在し研修した。
第1陣として南アフリカを訪問したのは、湘南鎌倉総合病院(神奈川県)の河内順・副院長兼主任外科部長と湘南藤沢徳洲会病院(同)の澤村直輝・外科医長。第2陣は、湘南藤沢病院の髙力俊策副院長兼主任外科部長と湘南鎌倉病院の村田宇謙・外科医長。第3陣は、八尾徳洲会総合病院(大阪府)の當麻俊彦・整形外科部長と札幌東徳洲会病院の合田祥悟・救急センター医師だ。
このほか各組の引き継ぎに関する事務的調整などのため、TMATの野口幸洋・事務局員兼ロジスティクス統括(一般社団法人徳洲会課長補佐)が適宜、現地に赴いた。
(右から)村田医長、髙力副院長、プラニ教授、合田医師、當麻部長
河内副院長(中央)と澤村医長(その左)
「たった一晩で銃創5人刺創は20人近くも搬送」
研修を通じ多くの症例に接してスキルアップ
摘出した弾丸を手にする髙力副院長
ミルパーク病院はネットケアグループという南アフリカ最大の民間医療グループが運営する医療機関。高度な外傷救急センターを有し世界でもトップレベルの病院のひとつ。国際標準の外傷外科治療であるDSTC(Definitive Surgical TraumaCare)を確立したケネス・D・ボファード教授が所属。プラニ教授は同院でも手術を行っている。
今回訪問した6人はオブザーバー(観察者)として、手術の支援などを行いながら見学中心の研修を行った。
髙力副院長は「とくにバラグワナ病院では毎日毎日、驚くほど銃創、刺創の患者さんが搬送されてきました。たった一晩で銃創は5人、刺創は20人近くにも上り、とにかく症例が多い。一つひとつの手技は外科医としてすでに身に付けている技術で問題ないと感じましたが、救命しながらどのように治療を組み立てていくか、治療戦略の考え方はとても勉強になりました。症例数が多いといっても同じ症例はひとつとしてなく、治療戦略の立て方もケースバイケースです。それだけに多くの症例を見られたことは、とても有意義で貴重な体験でした」と振り返る。
救急医療や外傷医療ではダメージ・コントロール・サージェリー (DCS)という治療の考え方がある。蘇生目的の初回手術、全身の安定化を図る集中治療、修復・再建手術の3要素からなる外傷治療戦略のことだ。銃創や刺創といった特殊な重症外傷に関するDCSを、多くの症例を通じて研修できた意義は大きい。
バラグワナ病院ER には毎日多くの患者さんが搬送
ロケーションチェックでバラグワナ病院を訪問した橋爪院長(右手前)
現地での生活は、宿舎と病院の間をレンタカーで移動し、危険とされる地域に立ち入らないように気を付けていれば、「危険を感じることはなかった」(髙力副院長)。
髙力副院長は「ある程度、経験を積み外傷医療に興味がある医師であれば、南アフリカでの研修内容は非常に有益です。今回だけで終わりにせず、できればTMATとして今後も継続していきたい」と展望している。