瘻孔形成補綴材「Hot AXIOSシステム」 膵臓の嚢胞への低侵襲治療 東京西病院が1例目を施行
2020.4.21
瘻孔形成補綴材「Hot AXIOSシステム」 膵臓の嚢胞への低侵襲治療 東京西病院が1例目を施行
東京西徳洲会病院は今年に入り初めて瘻孔(ろうこう)形成補綴(ほてつ)材「Hot AXIOS(アクシオス)システム」を用いた超音波内視鏡(EUS)下膵仮性嚢胞(すいかせいのうほう)ドレナージを行った。膵臓や膵臓周囲に生じた嚢胞(血液や体液、膿、壊死(えし)組織などが蓄積してできた袋状のもの)に対する治療で、胃から嚢胞にかけて筒状の補綴材を留置することで、嚢胞内の内容物を消化管に流し体外に排出する。初症例を手がけた山本龍一・肝胆膵内科部長(内視鏡センター長兼消化器病センター長)は「施行できるケースは限られますが、低侵襲で患者さんのメリットにつながると思います」と期待感を表す。
「今後も仲間と努力を重ねます」と山本部長(前列右)
膵仮性嚢胞は、急性膵炎後や慢性膵炎の経過中、あるいは腹部の強打など外傷後に見られる頻度の高い合併症のひとつ。炎症によって血液や体液、膿などが蓄積し嚢胞を形成する。無症状のケースもあるが、嚢胞の肥大化による激しい腹痛や細菌感染による高熱など重い症状が見られるケースもあり、治療が困難になったり、重篤な合併症を引き起こしたりする。
「膵炎自体、重症例では死亡率が高く怖い病気。当然、合併症である膵仮性嚢胞も注意が必要です。無症状や自然治癒する例があるとは言え、たとえば嚢胞自体が感染し、敗血症を合併して死に至る可能性もあります」(山本部長)
AXIOS 留置のイメージ
この膵仮性嚢胞または被包化壊死(壊死物質が混在する膵臓もしくは膵臓周囲の嚢胞)の治療に用いる医療器具が「Hot AXIOSシステム」だ。同システムは金属製ステント同様、“網目状の筒”のような形をした補綴材「AXIOS」と、それを適切な場所に留置するための「デリバリーシステム」から成り、胃から嚢胞にかけてAXIOSを留置することで、嚢胞内の液体や壊死組織を消化管に流し、体外へ排出、嚢胞を縮小させる。AXIOSは伸縮性があり、留置後の移動・逸脱リスクを軽減するために両端のフランジと呼ばれる部分が胴体部分よりも大きい“ダンベル型”になっている。デリバリーシステムはAXIOSの展開を術者が手元で操作するハンドル部と、先端に通電穿刺(せんし)機能を完備したカテーテル(デリバリーカテーテル)から成り、カテーテル先端部には、あらかじめAXIOSを充塡(じゅうてん)している。
Hot AXIOS システム(写真上)。ハンドル部で操作し、カテーテル先端部に充塡されているAXIOS を展開(ボストン・サイエンティフィック ジャパン提供)
AXIOSの内側にはシリコン製カバーが施してあり、網目から嚢胞の内容物が漏れ出すことはない。もともと海外で開発されたシステムで、日本では2017年に薬事承認され、18年9月に保険適用になった。
ただし、どの医療機関でも同システムによる治療を施行できるわけではない。事前に同システムに関する講習プログラムを受講した医師でなければ治療を行えず、講習プログラムの受講についても消化器内視鏡専門医の資格を有していることや、EUSの症例30件以上など要件が定められている。
さらに、受講した医師が同システムを使用し治療を行えるのは、その医師が常勤の医療機関のみ。
適応となる疾患も決まっており、症状のある(症候性)膵仮性嚢胞もしくは被包化壊死で嚢胞が胃壁または腸壁に密着していることが条件。さらにデリバリーカテーテルの穿刺部位の嚢胞径が3~4㎝以上、AXIOS留置部位に介在する血管がない、消化管壁と嚢胞壁の厚さ10㎜以内など要件が求められている。
患者さんのQOL向上へ
東京西病院は山本部長が事前に必要なプログラムを受講し、今年に入り1例目を実施。初症例ということもあり、内視鏡室ではなく、外科医の協力を仰ぎながら手術室で全身麻酔下で施行した。
治療は無事に終わり、患者さんは1週間ほどで退院。治療した日から3週間後に内視鏡でAXIOSを抜去した。現在も経過は良好で、外来に通院しているという。
初症例について山本部長は「外科の先生方が安全性を考慮して手術室での施行を提案してくださいました。無事に終わりほっとしています。渡部和巨院長はじめ髙木睦郎・外科部長兼救急センター長、飯島広和・外科部長に感謝しています」。
そのうえで「AXIOSは内腔(ないくう)径の大きさが3種類あり、手技自体も10分程度で終わり、短期間で効果的なドレナージが可能です」と強調。
山本部長は「同システムを用いた治療は、施行できるケースが限られるものの、患者さんのQOL(生活の質)を上げます」と指摘。「患者さんのために、今後も治療の幅を広げていきたいです」と意欲を見せる。
同システムの製造・販売会社によると、事前に必要な講習プログラムを受けた常勤医師が在籍している徳洲会グループ病院は4月13日時点で東京西病院を含め5施設。