読み解く・読み得“紙上医療講演”㉝ 感染しない・させない 新型コロナ対策
2020.4.14
読み解く・読み得“紙上医療講演”㉝ 感染しない・させない 新型コロナ対策
今回は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)について、湘南鎌倉総合病院(神奈川県)の佐藤守彦・感染対策室部長(徳洲会感染管理部会部会長)が解説します。いまだ感染拡大の勢いは衰えず、4月7日には安倍首相が7都府県を対象に、初めて「緊急事態宣言」を発令しました。国難とも言える事態に直面した今、佐藤部長は一人ひとりがCOVID-19を正しく知り、自覚ある適切な行動に努めるよう呼びかけています。
佐藤守彦・湘南鎌倉総合病院(神奈川県)感染対策室部長
そもそもコロナウイルスとは、もともと野生の生物が保有し、発熱や上気道症状を引き起こすウイルスです。人に感染するものとして6種類あることがわかっていますが、COVID―19は、それらのいずれとも異なるコロナウイルスのため「新型」というわけです。COVID ―19は病原性がSARS(重症急性呼吸器症候群)やMERS(中東呼吸器症候群)より低く、感染性も麻疹や百日咳(ぜき)より圧倒的に低いと言われています。
では、なぜ世界で感染者数160万人超、死者数も9万人を超える事態になっているのでしょうか。私は「軽症もしくは無症状のうちから感染力をもつ」、「自然環境のなかで長時間生存する」という特性が大きく影響しているように思います。
後者は、空気中の小さな粒子(エアロゾル)として数時間生存したり、物体の表面に付着しても数日間は生存したりしていることが報告されています。COVID―19の感染経路は飛沫(ひまつ)感染と接触感染ですが、このように空気中に浮遊しているウイルスを吸い込んで感染するケース(エアロゾル感染)や、ウイルスが付着した物体の表面を手で触り、その手を顔に当てることで目や鼻から感染するケースが考えられます。
こうした点から「知らずに感染し知らずに他者にうつしている」というケースが相次ぎ、感染者が急増。なかには医療崩壊が起こり、重症ケースに対応できずに死亡率が跳ね上がるという悪循環に陥ってしまうのです。
症状は当初、発熱、せきや痰(たん)など、いわゆるかぜ症状だけでしたが、最近は嗅覚や味覚の障害、さらに下痢など消化器系症状も報告されています。
治療法はまだ確立していません。現在、期待されているのは、もともと新型インフルエンザの治療薬として日本で開発された「アビガン」です。ウイルスのRNA(リボ核酸)の複製に必要な酵素の働きを選択的に阻害することで、ウイルスの増殖を抑える薬です。COVID―19も新型インフルエンザウイルスと同じRNAウイルスであることから、「ウイルスそのものをターゲットにする特効薬」として期待されています。体内でさまざまな炎症症状を引き起こす「炎症性サイトカイン」の産生を抑制する薬も治療薬の候補に上がっています。アビガンは治験が始まり、炎症性サイトカインを抑制する薬についても間もなく臨床試験がスタートします。
今は、何より予防が重要です。“3密”(密閉・密集・密接)を避けることや、免疫力を高めることは言うまでもありませんが、やはり手洗い、せきエチケット、手で顔を触らない、他者と1~2mの距離を開けるといった基本が大切になります。
感染拡大が完全に終息するには、ある程度時間を要すると思われます。医療崩壊を起こさないためにも、まさに今、一人ひとりの自覚と適切な行動が求められています。