宇治病院 京都府初ハイブリッドER導入 迅速な診断・治療へ貢献
2020.2.26
宇治病院 京都府初ハイブリッドER導入 迅速な診断・治療へ貢献
宇治徳洲会病院(京都府)はハイブリッドER(救急救命室)を導入した。ERの初療スペースの一角が、天吊り式の血管造影装置を配備した個室となっており、必要に応じて隣室との境にある扉を開け、CT(コンピュータ断層撮影装置)をER内にスライドさせ使用することができる。これによりERに搬送後、検査ごとに患者さんを移動させる必要がなく、患者さんを治療台に寝かせたまま血管造影やCT検査を行え、その場で手術もできる。迅速な診断・治療が可能となり、一刻を争う重症の救急患者さんの救命率向上が期待される。大学病院などが取り入れているものの導入施設はまだ少なく、宇治病院は京都府内で初、全国でも12番目の導入施設。
重症例の救命率向上に期待
「当院救急医療が大きく前進」と山西・救命救急センター長
同院ERは1階にあり、救急車搬入口から入り、ほぼ直進した突き当りに、ハイブリッドERとして運用している初療室が位置する。ERの初療ベッド計9床のうち1床をハイブリッドERにあてている。19年12月に運用を開始した。
同院救急総合診療科の山西正芳・救命救急センター長は「高エネルギー外傷や、ショック状態、意識レベルの低下(意識障害の評価指標であるJCS3桁=刺激しても覚醒しない状態)、脳卒中など重症例の救急患者さんの対応で、ハイブリッドERを活用しています。血管造影やCT検査が実施でき、手術も可能な設備になっていることから、疾患にもよりますが、患者さんを移動させることなく治療を完結することが可能です。これにより当院の救急医療が大きく前進しました」とアピールする。
続けて「実際の運用では、救急隊からのホットラインの電話連絡をふまえ、当科の医師がハイブリッドERで受け入れるか、通常の初療ベッドで受け入れるかを判断しています」と説明する。
ハイブリッドERで対応すると判断した場合、あらかじめCT装置を初療室内に移動させておき、必要があれば搬送後すぐに撮影できるよう受け入れ体制を整えておく。
状態急変に素早く対応 安全性と効率性に利点
扉を開けてCT 装置をER 内に移動
「血圧や心電図など生体情報を観察するモニターを装着したり、ルート(静脈ライン)を確保したりしたままCT検査を行うことができます。より安全な診療に役立っています」(山西・救命救急センター長)
患者さんを受け入れる際、疾患や重症度によって、救急総合診療科と他科が協力して対応。これまでハイブリッドERでの受け入れ症例のなかには、心肺停止状態で救急搬送されてきた患者さんに対し、ハイブリッドER内で心臓血管内科の医師と協力し、迅速にECMO(経皮的心肺補助装置)を用いた治療を開始、蘇生した症例もある。
20年1月の月間受け入れ件数は24人だった。山西・救命救急センター長は「症例を重ねるなかで適切にフィードバックを行い、ハイブリッドERのより良い運用に向け取り組んでいきたい」と抱負を語る。
ハイブリッドERがある場所は以前、320列CTを配備したCT室だった。同CTを別の場所に移設し、血管造影装置や治療台を敷設したり、無影灯など設備、手術に必要な物品などを入れたりし、ハイブリッドER仕様に変更。さらに、この部屋に隣接するCT室に、ハイブリッドER用に80列CTを入れ、間を隔てる壁に自動開閉できる扉を取り付け2室仕様のハイブリッドERを完成させた。この80列CTは、ふだんは独立したCT装置として使用することができる。
ハイブリッドERとして使用する場合、隣のCT室との間の扉を開けCTを移動させる。CTは床面に取り付けたレールに沿って自走可能だ。導入に際しては、先行してハイブリッドERを導入した大学病院の見学を行い参考にした。
検査・治療の完結が可能なハイブリッドER
稼働を目前に控えた昨年11月29日には内覧会を開催。周辺消防署の救急隊や京都府、大阪府、奈良県の救命救急センター、京都府内の救急告示病院、近隣の診療所などから救急隊員34人、医師5人、看護師32人を含む計116人が参加、関心の高さがうかがえた。末吉敦院長は「ハイブリッドERを有効に活用していくことで重症救急患者さんの救命率の向上が期待できます。ひとりでも多くの患者さんの救命に貢献していきたい」と意気込みを語っている。