徳洲会消化器がん部会 最新の知見を共有 第5回消化器がん研究会
2020.1.15
徳洲会消化器がん部会 最新の知見を共有 第5回消化器がん研究会
徳洲会消化器がん部会は昨年11月9日、都内で第5回消化器がん研究会を開催した。これはオンコロジー(腫瘍学)プロジェクトの一環で、徳洲会グループ全体の消化器がん診療のスキルアップが目的。全国のグループ病院から医師や看護師、薬剤師ら約45人が参加、一般演題6演題に加え、ハイパーサーミア(がん温熱療法)をテーマにしたレクチャーもあり、参加者は知見を共有した。
種々の診療科、専門医が集まる徳洲会らしい勉強会」と下山部長
永田部長は胃ESDでのS-Oクリップの有用性を報告
一般演題では、湘南藤沢徳洲会病院(神奈川県)の永田充・内視鏡内科部長が「胃ESDにおけるS‒Oクリップの有用性」と題し発表した。S―OクリップはESD(内視鏡的粘膜下層剝離(はくり)術)の視野確保と手技時間短縮を目的に粘膜を把持するデバイス(器具)。アンカークリップ装着の困難性、手技時のバネとの干渉など課題を示しつつも、S ―Oクリップの有用性を報告した。
まず胃がんに対する内視鏡治療の適応や手技など解説。そのなかでESDを取り上げ、S ―Oクリップを使用して施行した症例と、使用していない症例を比較検討。その結果、施行時間は短縮、有害事象は認めなかったとし、「S ―Oクリップは胃ESDに有用だと考えます」とまとめた。
松原徳洲会病院(大阪府)の古河洋・外科顧問は「内視鏡生検でがん細胞が検出できなかったスキルス胃がんの切除例」をテーマに発表。スキルス胃がんは治療成績が悪く、診断困難例がある。発表では、肉眼的に明らかにスキルス胃がんであるが、生検でがん組織が得られず、試験開腹でがん組織を得て手術できた症例を報告した。
スキルス胃がんは、少しでも早期に診断することが重要とし、「肉眼的に明らかであれば〝待たずに行う〟試験開腹(審査腹腔鏡(ふくくうきょう))は有効だと考えます」と結論付けた。
「スキルス胃がんは少しでも早期の診断が重要」と古河顧問
機能性膵神経内分泌腫瘍の治療について解説する浅原副院長
千葉徳洲会病院の浅原新吾副院長は「局所療法と化学療法の併用により長期生存がえられている機能性膵(すい)神経内分泌腫瘍の1例」と題し発表。健診で多発性肝腫瘍を認め近医を受診し、膵がんと誤診され、治療が開始された症例を提示した。
同院転院時には、全身状態が悪化していたため対症療法を優先して行い、状態が安定してから肝生検など施行、その結果、機能性膵神経内分泌腫瘍と診断。「肝転移に著効した治療はDSM(微小でんぷん球)―TACE(DSM併用動注化学塞栓療法)である」と報告した。
野崎徳洲会病院(大阪府)の皆田睦子・消化器内科医師は「自然縮小傾向を認める肝細胞がんの1例」をテーマに発表した。脂肪肝以外の慢性肝疾患が基盤に認められない肝細胞がんの症例を報告。経過から当初は肝挫傷の可能性が考えられ、経過観察中に門脈腫瘍栓を合併するも、無治療で腫瘍は一時縮小傾向を認めた。
その原因として、「腫瘍浸潤や腫瘍栓により動脈や門脈の血流を失い、二次的に腫瘍梗塞が発生したこと、消化管出血や腫瘍の急速な増大により肝が乏血状態に陥ったことなどが考えられます」と予測した。
湘南鎌倉病院の川原敏靖・肝胆膵外科部長は「ダヴィンチ補助下肝切除の経験と治療成績」と題し発表した。近年、肝胆膵外科領域で低侵襲手術が積極的に行われるようになり、とくに内視鏡手術支援ロボット「ダヴィンチ」への期待は大きい。発表では、川原部長が執刀したダヴィンチ補助下肝切除の手術手技と成績を報告した。
皆田医師は自然縮小傾向を認める肝細胞がんの症例を報告
ダヴィンチ補助下肝切除の手術手技と成績を報告する川原部長
通常の腹腔鏡手術の難点として、①鉗子(かんし)操作が直線的となるため鉗子の動作制御が強いられる、②手ぶれが鉗子の先に伝わる、③縫合結紮(けっさつ)の難易度が高い――を挙げた。一方、ダヴィンチを使用すると、これらの課題がクリアされ、「安全かつ正確な手術を施行できました。とくに肝門部や肝切離面の脈管処理に有用性を発揮すると考えます」と強調した。
吹田徳洲会病院(大阪府)の関明彦・腫瘍内科がんカテーテル治療センター長は「肝細胞がんに対するTACE~レンバチニブを勉強する前に知っておくこと」をテーマに発表。切除不能多発肝細胞がんに対する標準治療として、リピオドールとゼラチンスポンジを用いた従来のTACE(肝動脈化学塞栓療法)は、日本からさまざまなエビデンス(科学的根拠)が発信されている。
一方、欧米から遅れて薬剤溶出性球状塞栓物質(DEB)を用いたDEB―TACEが日本でも実施可能になったが、従来のTACEとの優劣は証明されていないのが現状。さらに「レンバチニブ(マルチキナーゼ阻害剤)の登場により、TACEの導入時期、役割も変わりつつあります」と指摘した。
続くレクチャーでは、福岡徳洲会病院の成定宏之がん集学的治療センター長が「ハイパーサーミアとは~そのエビデンスと実際の治療成績」と題し講演。同院は、高周波により、がん細胞を温めて死滅させたり、化学療法・放射線療法の治療効果を高めたりするサーモトロンという医療機器を導入し、ハイパーサーミアを開始した。
関センター長は肝細胞がんに対するTACEについて説明
ハイパーサーミアの基本から応用まで解説する成定センター長
成定センター長は①ハイパーサーミアは表在性腫瘍には良い適応、②深部腫瘍の放射線治療との併用では、一定の温度上昇が得られれば増感効果が得られる可能性がある、③抗がん剤との併用では、深部腫瘍でも容易に腫瘍内部・周囲の温度上昇が得られるため、抗がん剤自体の効果が残っているのであれば効果が得られる可能性がある――と説明した。
症例検討会終了後には、他団体主催の講演会を開催。虎の門病院の池田健次・肝臓センター内科医師が「肝細胞がん治療の最前線~実臨床におけるレンバチニブの活用~」をテーマに講演した。