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重藤・長崎大学教授 日常診療から着想を研究開発推進の重要性説く

2019.08.06

日常診療から着想を研究開発推進の重要性説く

7月度の徳洲会グループ医療経営戦略セミナーの初日、長崎大学の重藤和弘・研究開発推進機構教授は「日常診療から研究開発へ」をテーマに講演した。日本では基礎研究から実用化までの間にさまざまな障壁があることを指摘したうえで、打開策として医師主導治験を提案。医療分野の研究開発には日常診療からのアイデアがきわめて重要であることを強調した。また、神奈川県の首藤健治副知事(医師)は「ヘルスケア大転換時代における神奈川県の取り組みについて」と題して講演を行い、県が力を入れている未病への取り組みなどを発表した。


「医療従事者はフロンティア精神を」と重藤教授 「医療従事者はフロンティア精神を」と重藤教授

冒頭、日本の研究開発の状況として、高い基礎研究の能力がありながらも、なかなか実用化に至らないことを指摘。その障壁として、知財戦略(論文と特許の問題など)の欠如、規制(薬機法や関連する基準にのっとった試験の実施など)への理解の不足、市場性を考えた開発戦力の欠如などを挙げ、これらを熟知した人材の不足を示した。

重藤教授が理事を務めていたPMDA(医薬品医療機器総合機構)では年々、人材体制を強化。薬事規制の観点から開発戦略や試験プロトコル(実施計画書)へのアドバイスを行い、承認審査期間も米国FDA(食品医薬品局)と同等程度に短くなっている。しかし、医薬品は他の製造業に比べ研究開発費がかかる一方、開発の成功率が低いこと(2008年から5年間で、化合物数198のうち承認に至ったのは25)などから、新規の開発が進まない状況にあると解説した。

そこで重藤教授は医師主導治験を提案。①海外では、すでに承認されているが、日本では承認されていない、②承認されているが、新たな適用で使用したいーー医薬品・医療機器があり、採算性などの理由により、製薬企業などが治験を行わない場合、医師自らが治験を実施することを制度上可能であるとした。費用は、対象となる医薬品・医療機器については実施機関等が負担、その他の検査や投薬などにかかる経費は保険診療で可能となる。

医薬品開発と医療機器開発の違いにも言及した。日本の医療機器開発の問題点として、①風評被害を恐れて、侵襲性の高い治療機器を開発しない(一方、診断機器は輸出が多い)、②ベンチャー企業が育たない、③医療現場のニーズではなく、研究シーズから開発しようとするーーなどを挙げ、医師主導による医療機器開発の必要性をアピールした。

臨床から医療機器の開発に至った実例として、まず人工水晶体をピックアップ。戦闘機の風防(操縦席の窓)が目に刺さった飛行士に、異物反応が起こらなかったため、眼の中にレンズを入れる着想を得たという。

経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)もそのひとつ。学会で冠動脈ステントを見た医師が「生体弁もカテーテルで運べないだろうか」と思ったことから始まり、1989年に初のブタ大血管への経カテーテル弁置換に成功。95年頃にはバルーン大動脈弁形成術から着想を得て、現在の術式に至る道筋が開かれたことを説いた。

最後に重藤教授は「医療分野の研究開発には、日常診療からのアイデアがきわめて重要になります。医療従事者がフロンティア精神をもっていただけると、これほど心強いことはありません。研究開発は私たちがサポートします」と呼びかけた。

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